ファイナンス 2017年10月号 Vol.53 No.7
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1.書の実演皆さん、初めまして。紫舟と申します。どうぞよろしくお願いいたします。まず先に書を書かせていただこうと思います。人が書を書き上げていく過程を見る機会はなかなかないと思いますので、よろしければお近くにいらしてくださいませ。私がふだん使っているお道具も見ていただこうと思います。ふだん使っている筆は、今日もこの筆で書くのですけれど、奈良県吉野山でお1人の職人が最初から最後までつくりあげた筆を使っています。熊野などは分業で、奈良吉野山は専業というスタイルだそうです。筆は、一般的に短くて弾力があるものが書きやすいとされていますが、私はその真逆で、腰がない筆を用います。山羊の首辺りの最も長く柔らかい毛の筆を使っています。せっかくですので皆さんにもお回ししますので、筆の毛先や、柄の軽さを感じていただければ、と思います。短くて弾力がある筆を使えば比較的書きやすいのですが、なぜこのような特殊で使いづらい筆を使っているかご説明します。例えて申し上げますとヴァイオリンのストラディバリウスと似ています。ストラディバリウスは、演奏された音だけ聞くと、プロが聞いても50万円のアジア製のヴァイオリンと、数億円のストラディバリウスとでは聞き分けられないと聞いたことがあります。ではなぜプロはストラディバリウスを弾きたいのか。それはストラディバリウスは、他のヴァイオリンが音が拡散するのに対して、演者の近くに音がこもるため演奏者が何とも言えない気持ちよさを感じることができるそうです。ストラディバリウスを選ぶ理由は、恐らくよい道具というのは、プレイヤーに、最も練習を強いるものではないかと思うのです。要は、ストラディバリウスはそれほど使いこなすのが難しい楽器なのでしょう。ようやく使いこなせたときの快感。この筆も非常に難しいものですけれども、扱えたことでよい墨蹟が生まれたときにとても気持ちのよい快感を与えてくれます。より一層の努力を要するものこそが、よい道具と言えるのではないかと思っています。皆さんも筆で文字を書くことがありますね。縦の線などは、手首だけで書いていると、線がゆがんでしまいます。まっすぐの線を書くには肩で書くとよいようです。手先は軽くコントロールするために用い、肩で、体で書くというイメージです。ですので、肩を引くようにして書かれるといいと思います。また、線を書いたときに、書き出しが真っすぐであっても、後の方がゆがんでしまうことがあり文化を再構築し世界へ発信 ~北斎は立体を平面に、紫舟は平面を立体に~講 師演 題紫舟 氏書家/アーティスト夏季職員 トップセミナー平成29年8月4日(金)開催44ファイナンス 2017.10連 載|セミナー

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