ファイナンス 2017年10月号 Vol.53 No.7
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つの見方として技術がそれなりに成熟してきたのかなと思っております。ITやICTは、僕が若いころは最先端のテクノロジーでしたが、今は枯れた技術になりつつあるかなと。そうなるとインベンションのハードルよりもイノベーションのハードルの方がぐっと上がってくるという、多分そういう背景があるのかなと思っております。今の日本の企業、特にIT、ICT系企業の電機メーカーでの閉塞感というのがあります。ざっくり言ってしまいますと、インベンションのハードルが高かったときの組織のままなのです。イノベーションのハードルが高くなったのであれば、それにあわせた組織に企業のあり方を変えていかないといけないのではないか。すなわち資源配分をどうするかの問題に絡んでおりまして、これは経営者の方々は結構理解され始めておられますが、現場の方々はまだまだ意識が変わっていない。すなわち技術を作る人というのは「技術を作るのが偉いのだ」という意識がなかなか変わってないから、そういう閉塞感があるのではないかと思っております。○ECHONETECHONETというものがあります。これは日本で15年ぐらい前からでしょうか、取り組んでいるスマートホームです。全ての家電とかを接続して、すばらしいスマートホームを作りますということでやっておりましたが、結果的には普及していないわけです。これは私から見ると、インベンション・ドリブンなのです。テクノロジーがあるからテクノロジーでやろうよというインベンション側のドリブンだったわけです。一方、シリコンバレーでやっているのはニーズから入っていますので、イノベーション・ドリブン。そのあたりについてしっかり考え直さないといけないかなと思います。○MITと東工大MITと東工大について、数年前に調べて驚いたのは、学部学生・大学院生の数と教員数がほとんど一緒だったのです。学部は4,000人から5,000人、大学院が5,000人から6,000人、教員は1,000人から1,100人ということで、何が違うのかというと、教員以外のスタッフです。MITは教員1,000人に対して残りのスタッフが9,800人。東工大は教員1,100人に対して残りのスタッフは630人。これはちょっと考えたほうがいいのではないかということで、例えばMITのリソース配分がベストだとしたら、日本はスタッフを増やしていかなければいけない。教員はインベンション側のツールです。新しい技術とかでつくったものをうまく社会に展開していくのがイノベーション側ですから、イノベーションを担うスタッフにリソースを回していかなければいけないと思います。○AmazonのDash buttonアマゾンダッシュボタンも然りでして、技術よりもお客さんをずっと観察しているわけです。アマゾンダッシュボタンを、消費財の近くにボタンを置いて、なくなったらボタンを押せば発注するという代物ですが、どういう使い方かというと、このボタンを押したらスマホにメッセージが届きます。スマホで本当に発注しますかという確認ボタンを押して、最終発注となる。したがって、どうせスマホを使って発注するのだったら、初めからソフトでやればいいだろう、というのがほとんどの技術者の発想です。でもこれをハードから行ったというところがすごいなと思っています。ハードをつくるのはすごく大変なのですね。技術屋が主導すると多分アプリでつくりますが、アマゾンは「アプリだったら押してくれない、使ってくれないんだよ」ということで、絶対ハードから行け、どんなに面倒くさくてもハードから行け、となったのでしょうが、そこが結構重要なポイントだなと思っております。(5)デザイン思考5番目のデザイン思考です。いろいろなところで言われておりますけれども、技術屋でもデザイン思考は必要になってきたと思っております。従来必要とされた能力は「考える」と「試す」42ファイナンス 2017.10連 載|セミナー

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