ファイナンス 2017年10月号 Vol.53 No.7
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*5)ASEANには旧英国領が多く、英国式の英語教育に熱心です。特にエリート層の子弟の多数は、高校くらいから英(米豪)へ留学に行きます(当オフィスのスタッフの場合、それに加えて英米豪の大学院にも留学していました)。従って、「知的に話し」「知的に書く」能力に優れた者が多数在籍していました。勿論スタッフの中には経済学は習得していても「知的に英語を書く」訓練が十分でない者もいます(自分も含め多くの日本人はこちらに属します)。各国に配布するレポートなどは、国際機関OBと守秘義務を結びコンサルタントとして雇って、英語の面で各国当局から揚げ足を取られないよう配意しました。英語の出来について特別扱いされるのは「面子」に係わるためか、他のスタッフより数日早く作業をする必要があるためか、当該スタッフ達からは著しく不評でした。*6)自分の方針は繰り返し発信しないと組織内では共有されないのが、多国籍の組織と日本の組織との大きな違いと思われます。欧米に所在する国際機関の中で部下から上司への勤務評価があるところでは、何をやりたいかを分かりやすく伝えないと、容赦なく上司の「指導力、伝達力」に低い点数が付くそうです。自分はそこまでの経験はせずに済みましたが、組織内で日本人一人となって、自分の考えを繰り返し発信することの重要性は痛感しました。*7)ヴィデオ電話は指示伝達には有効なのですが、他方、物事を決めるには不向きのようで、何かを決めるためには手間がかかっても物理的に集まること(出張の多い職場のため、2~3週間先になることも珍しくありません)が結果的には近道でした。写真2 ヴィデオ会議の模様(2014年12月)、文中の記述とは関係ありません(3)口頭で説明する機会を設ける文章を用いて伝えられる情報量には限りがあります。12か国出身のスタッフはその文化的社会的背景から、こちらが想像すらしない解釈をすることがあります。その場合、口頭で説明すると伝わる情報量が何倍にもなる印象ですし、こちらも伝わっているかどうかが分かるため、各自の解釈による脱線も大きく減少します。自分の場合日本人の典型で、英語力の稚拙さという点では、「書く」よりも「話す」方が更に数段劣っているはずでした。それにも関わらず、おそらくオフィスの中に限られますが、所長がこういう言い方をしたらこういう意味である、という理解のパターンが出来上がっているためか、「伝わっている」感触がありました*6。「今日の会議での結論を紙にして所内に配布しておいて」とお願いすると、スタッフの英語力を反映して語彙のレベルが高いものとなります。自分の指示事項を確認するのに辞書機能を必要とすることもたびたびでした。自分の言いたかったことが正確に格調高い英語の文章になっているのは、きちんと伝わっていて安心なような、自分の語彙の乏しさが情けないような複雑な気持ちになりました。(4)ヴィデオ電話は情報伝達には有効スカイプなどのヴィデオ電話は、単なる電話よりも伝わる情報量が増えます。何よりも、話を聞いている人の表情が見えるため、どのくらい理解されているか分かるのが重宝でした*7。ファイナンス 2017.1035国際機関を作るはなし ASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)創設見聞録 連 載|国際機関を作るはなし

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