ファイナンス 2017年10月号 Vol.53 No.7
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キャノン・フィルムズ。イスラエル人のメナハム・ゴーランとヨーラン・グローバス従兄弟が立ち上げたこの映画会社が放出しまくる低予算B級映画に何度も胸を熱くした経験がないのであれば、80年代を少年として生き抜いたとは言えない。「牛乳瓶の底みたいなメガネして四谷大塚にでも通っていらしたんでしょ?」と、いらぬ嘲笑を買ってしまう。特に『地獄のヒーロー』*1(1984年)、『デルタ・フォース』(1986年)など、いわゆる「チャック・ノリス強すぎる」映画の製作、そして、撮影に入る前にカンヌ映画祭に派手なポスターを掲示してプリセールスを完了してしまい、そのお金でようやく映画を作るという、もはや自転車操業という言い方すらお世辞になるレベルのありえないビジネスモデルで大成功をおさめた。そのキャノン・フィルムズが放った忍者映画の第一作目がまさに本作。全米に巨大なニンジャ・ブームを巻き起こすきっかけとなった作品である。冒頭からさすがのキャノン・クオリティ。主人公のコール(フランコ・ネロ)が白いニンジャとなって、敵である赤いニンジャと森林で大立ち回り。緑の森に赤いニンジャ…。「隠密」という言葉は何なのかを考えさせられる、まるで90年代後半の黒人カラーギャングを彷彿とさせる自己主張。日本でニンジャ修行を終えたコールは、フィリピンで農場を営む友人を訪ねる。すると、地上げ屋の地元マフィアに嫌がらせを受けており、コールはニンジャとなって立ち向かう。相手マフィアもただ者ではなく、なんと別のニンジャ(ショー・コスギ)を雇う暴挙に。ラストシーン。小さなコロシアムのような場所で、コールを待ち受けるマフィアのボス。相変わらず忍者服の白い自己主張は気になるが、物陰に隠れ下っ端の敵を一人ずつ倒すコール。恐怖におののくボス、あろうことか「ヘイ、ニンジャ!話し合おう。ニンジャ!仲間にならないか。」と、お約束の遅すぎる呼びかけ。でも「ニンジャ」って…、呼び方ざっくりし過ぎてませんか?「おい公務員」「おい会社員」と呼ばれても、ついキョロキョロしてしまいます。あなたももう一人ニンジャ雇ってますし。呼びかけ空しく手裏剣を受けるボス。あれ?みたいなこの死亡シーンこそ、まさにYou tubeの「Worst Death Scene」で頻繁に紹介されるすばらしい死に様。そして最後はショー・コスギとの興奮のニンジャ一騎打ち。キレッキレのコスギに比べてそもそも運動神経の無さそうなイタリア人フランコ・ネロのアクションが何故か勝り、最後は巴投げの末に寝たまま刀でぶっ刺すというイマイチな技で勝利する。敵をすべて倒し、フィリピンを去るコール。空港で運転手の「ヘイ、ニンジャ。次は誰を殺すのかい?」とのセンスのなさすぎる質問に、「本物のニンジャは殺さない。“消す”だけだ。防御のために。」…くーっ。これである。まさしく忍者道。おそらく全編通じて最も感動的なシーン。しかしこれを聞いた運転手の「はぁ?」みたいな表情、これ、撮り直しできなかったんでしょうか。いずれにせよ、観る者に様々な余韻を残しながら、ニンジャは一人フィリピンを去っていく。余談だが、当時本作を観た米国の友人から「日本にはまだニンジャがいるのか?」と真顔で訊かれ、「俺もよく知らないが、京都あたりにはまだ200人くらいいて、たまに人斬って殺してると聞く」と答えた時の彼の「Really!?」という声と瞳の輝きに、思わず目を背けてしまったことは言うまでもない。文章:かつお「燃えよNINJA HDニューマスター版」発売元:是空、販売元:TCエンタテインメント、発売中価格:Blu-ray 4,200円+税、DVD 3,800円+税ENTER THE NINJA © 1981 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.Package Design © 20XX Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.DISTRIBUTED BY HOLLYWOOD CLASSICS LTD. ON BEHALF OF TWENTIETH CENTURY FOX HOME ENTERTAINMENT LLC AND MADE AVAILABLE IN JAPAN EXCLUSIVELY THROUGH TOMORROW FILMS.製作会社:キャノン・フィルムズ、監督:メナハム・ゴーラン出演:フランコ・ネロ、ショー・コスギ『燃えよNINJA(原題:Enter the Ninja)1981年』*1)チャック・ノリスがベトナム捕虜を単独で救出するストーリー。そう。もうお分かりの通り、のちに『ランボー怒りの脱出』(1985年)とのイミテーション論争を生んだことは釈迦に説法か。しかしそんなことはおかまいなしの「やっちゃえ、やっちゃえ」感が、これまた80年代感、キャノン・フィルムズ感である。24ファイナンス 2017.10わが愛すべき80年代映画論わが愛すべき80年代映画論(第三回)連 載|わが愛すべき80年代映画論

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