ファイナンス 2017年10月号 Vol.53 No.7
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テンシャルを秘めているともいえる。日本は、世界有数の再生可能エネルギー投資国だ。Bloomberg New Energy Finance*9の統計によれば、2016年における再生可能エネルギー新規投資額において、日本は中、米、英に次いで世界4位である。だが、日本の企業・家計が有する莫大な資金がより本格的に動き出せば、国内、そして世界のグリーン投資の動向に大きな影響を与えうる。COP21を間近に控えた2015年9月、世界のグリーン・ファイナンス関係者が注目する日本の動きがあった。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が「責任投資原則」(PRI:Principles for Responsible Investment)に署名したことだ。PRI*10とは国連事務総長の提唱により2006年に発足したイニシアティブで、ESGを投資判断に組み込むこと等、6つの「原則」から成る。現在、50以上の国から、1700以上の投資関連機関が署名し、その運用額は合計約70兆ドルに上る。GPIFは2016年度末時点で約140兆円を運用する世界最大の年金基金であり、その資金が「責任投資」へ向かうことは大きなインパクトを有する。これについては、安倍総理が国連総会演説で明示的に言及を行った*11。GPIFは、運用を受託する金融機関にESGを考慮して投資するよう促している。また、2017年7月、3つの「ESG指数」を選定し、同指数に連動したパッシブ運用を開始することを発表した*12。責任投資に関するより大きな流れとして、「日本版スチュワードシップ・コード*13」が2014年2月に制定され、2017年5月に改訂が行われた。改訂版においては、環境関連のリスク・収益機会を含むESG要素が、機関投資家の把握すべき事項に含まれることがより明確化されている。本コードは、グリーン・ファイナンスに特化したものではないが、機関投資家がグリーン・ファイナンスを含む責任投資に取り組む契機となる可能性がある。グリーン・ボンドに関しても、徐々に動きが出てきている。国内主体としては、日本政策投資銀行が2014年に初めてグリーン・ボンドを発行し、三井住友銀行や三菱UFJフィナンシャルグループといったメガバンクも発行を始めている。また、東京都がグリーン・ボンドの発行へ向けた準備を進めており、2016年11月、その試行として「東京環境サポーター債」を発行した。これは個人を対象としており、約100億円相当が販売されたが、即日完売したとのことである。東京都は、2017年10~12月に、個人及び機関投資家を対象として、200億円程度のグリーン・ボンドの発行を行うこととしている*14。また、グリーン・ボンドへの投資についても日本の金融機関や生命保険会社が積極的に関わっており、例えば日本生命は、パリ市やロンドン交通局のグリーン・ボンドへの投資を行うほか、ESG債等への投融資の数量目標を掲げている*15。こうした中、環境省がグリーン・ボンドに関する有識者検討会を開催し、2017年3月、日本版の「グリーンボンドガイドライン」を策定した*16。日本の金融市場は、世界のグリーン・ファイナンス関係者から見れば「眠れる巨象」であり、その動きは注目されている。OECDの私のチームは、毎年、Green Investment Financing Forum*17という会議を開催しているが、2016年10月、初めてこれをパリのOECD本部の外、しかも東京で開催した。これは、グリーン・ファイナンスをテーマとする大規模な国際イベントとしては、日本初であったと思われる。世界の最前線*9)Frankfurt School-UNEP Centre / BNEF (2017)“Global Trends in Renewable Energy Investment 2017”, http://fs-unep-centre.org/publications/global-trends-renewable-energy-investment-2017*10)https://www.unpri.org*11)http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2015/0927statement.html*12)http://www.gpif.go.jp/operation/pdf/esg_selection.pdf*13)http://www.fsa.go.jp/singi/stewardship/index.html*14)http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/02/03/02.html*15)http://www.nissay.co.jp/kaisha/csr/details/unyou*16)http://www.env.go.jp/policy/greenbond/gb/conf/conf.html*17)http://www.oecd.org/cg/forumファイナンス 2017.1013グリーン・ファイナンスの最前線(第3回)SPOT

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