ファイナンス 2017年10月号 Vol.53 No.7
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れぞれの区分において、多様な企業・国籍のメンバーを集めている。メンバーの出身母体には、アクサ、JPモルガン、バークレイズ銀行、東京海上といった名だたる金融機関や、タタ製鉄、ダイムラー、ダウ・ケミカルといった事業会社が名を連ねている。TCFDは、数次の中間報告とパブリックコメントを経て、2017年6月に最終報告書を公表し、同年7月のG20首脳会議に提出した。その提言は、「企業統治」(governance)、「戦略」(strategy)、「リスク管理」(risk management)、「指標と目標」(metrics and targets)の4つの要素に着目しており、気候変動リスクについて、その企業の経営陣がどのように把握しているか、企業の戦略にどのように影響するか、そのリスクをどのようにして管理するか、それを把握するための指標(例えば温室効果ガス排出量)と目標をどうするか、といった事項についての情報開示に言及している。また、こうした情報を、付随的なレポートではなく、主要な財務書類の一環として開示することを推奨している。財務書類こそが、企業の経営陣や株主、投資家が注目するものだからだ。TCFDの提言は、企業による自発的な取組みを前提とするものだが、気候変動関連の情報開示の実効性を高めるためには、法令による義務付けが必要との議論もある。フランスは、2015年に「エネルギー転換法」を制定し、その中で、上場企業・金融機関・機関投資家による、気候変動関連情報の開示を規定した*7。それを規定する173条という条文番号が通称として広まるほど、この法律はフランスのみならず世界の関係者の間で広く知られている。特に、機関投資家について、ESG(environmental, social, governance)要素及び気候変動リスクへの対応に関する情報開示義務を導入したことが先駆的であり、実務上どのように機能するか、注目が集まっている。•G20におけるグリーン・ファイナンスの検討2016年のG20 において、議長国を務めた中国のイニシアティブにより、新たにGreen Finance Study Group(GFSG)が設置された。このGFSGが、G20のファイナンス・トラックに設けられたことの意味は大きい。参加するのは各国の財務省・中央銀行であり、グリーン・ファイナンスが、環境問題を超えて、財務省・中央銀行が関与すべき経済・金融の重要課題となりつつあることを示すものだからである。GFSGは、「Greening the banking system」「Greening the bond market」「Greening institutional investors」「Risk analysis」「Measuring progress」の5つのテーマについて分科会を設け、各国・国際機関等と議論を行い、統合報告書*8を2016年7月の財務大臣・中央銀行総裁会議及び9月のG20首脳会議に提出した。2017年、ドイツが議長国のG20下においても、テーマを絞りつつ、GFSGは継続されている。なお、GFSGは中国政府の肝いりで創設されたものである。中国には大気汚染などの課題があるが、逆にそれもあって、環境政策には力を注いでおり、特にグリーン・ファイナンスの分野では「新たな巨人」として世界をリードしようとする志向が伺われる。グリーン・ボンドについても、当局の主導により市場を整備し、にわかに世界最大のプレイヤーとなりつつある。中国が経済の規模だけではなく、質的な面においても国際的にアピールを強めていることは注目しなければならない。•日本におけるグリーン・ファイナンスへの取組み日本は世界有数規模の金融資産と、成熟した金融市場を持つ国であるが、グリーン・ファイナンスへの認識・取組みは欧米に比べて立ち遅れていると言わざるをえない。だがそれだけに大きなポ*7)PRIによる解説について以下を参照。https://www.unpri.org/news/what-the-french-energy-transition-law-means-for-investors-globally*8)http://unepinquiry.org/wp-content/uploads/2016/09/Synthesis_Report_Full_EN.pdf12ファイナンス 2017.10SPOT

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