ファイナンス 2017年9月号 Vol.53 No.6
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をつつくような審査とはならず、このような大きな視座からの分析を享受できた背景として、私のカウンターパートであるFSAPミッションチーフのガストン・ジェロス氏が、IMFの金融分析全体の責任者であり、IMF金融安定報告の著者であった幸運も働いていよう。(2)FSAPの進化当初、任意であったFSAPは2010年からシステム上重要な金融部門を有する25か国を対象に5年に1度行うことが義務化された。勿論、日本を含み、2013年には29か国(豪、墺、白、伯、加、中、丁、芬、仏、独、香港、印、愛、伊、日、韓、ルクセンブルグ、墨、蘭、諾、波、露、星、西、瑞典、瑞西、土、英、米)まで拡大した。その他の国や地域については任意である。FSAPは5年に一度、見直しが行われるが、2014年のFSAPのレビューでは、2009年のレビューにおける①脆弱性分析へのリスク評価マトリックスの導入、②ストレステストをより広範なリスクをカバーするよう拡充、③波及効果分析の進展、マクロプルーデンス枠組、金融セーフティネットも審査対象化といった改善が評価された。その上で、今後は、①ストレステストの対象を銀行部門以外に拡張、②相互連関性、国境を超えるエクスポージャ、波及効果の分析を強化、③ミクロプルーデンス、マクロプルーデンス面の監督やセーフティネットの制度面の枠組みのより体系的な評価の導入の改善が求められた。これらを踏まえ、今回の対日審査においても、①金融安定評価をシステミックリスクに焦点をあてること、②相互連関性の深度ある扱いやクロスボーダーのエクスポージャやスピルオーバーのより体系的な分析等の導入、③マクロプルーデンス政策のより体系的な取扱い等の改善が観察された。また、4条協議におけるマクロ経済サーベイランスとの整合性の確保についても強化されてきている。(3)今回対日審査の主な概要○ 低成長・低金利は、その根底にある少子高齢化という逆風と共に、金融システムにとって、慢性的なチャレンジを課している。緩和的な金融環境に関わらず、低迷する国内需要が、投資と国内与信の伸びを鈍らせている。低金利とフラットイールドカーブと相まって、これらの要素は、世界で最も大きくかつ最も洗練された金融システムの一つである、(日本の)金融システムに持続的なチャレンジを投げかけている。かなりの程度、こうした環境の背景にあるのは、特に少子高齢化という逆風を反映した、性質において構造的なものである。銀行や生命保険会社の収益率は低く、ネット金利マージンは縮小している。多くの先進国は将来同様の逆風に直面するであろうことから、こうしたチャレンジへの日本の対応の重要性は、国境を越えたものである。○ 日本の金融システムは引き続き安定しているものの、低収益環境は新たなリスクを生み出しており、またプレッシャーは続くであろう。銀行による利回りの追及は、いくつかの銀行の海外活動の拡大につながり、より一般的には、不動産向け貸出しと外債投資の増加につながっている。中小企業へのリスクベースの貸出を増やすという取組みは歓迎するが、多くの銀行は、それに見合った与信審査能力をつけていく必要がある。ストレステストは、市場リスクが増加しており、地銀において幾分の脆弱性があるが、銀行セクターは引き続き概ね健全であると示している。保険会社は、金利保証に見合うだけの利回りを提供する海外投資を進めたが、生命保険会社の経済価値ベースのソルベンシーは著しく低下している。潤沢な円の流動性と全通貨ベースのポジションに比して、特に海外展開をしている地銀のいくつかにおいて、外貨ポジションにおいて潜在的な脆弱性が存在する。○ 少子高齢化は、日本の金融システムが徐々に構造的に変化していくことを意味するであろう。実証分析によれば、高齢化は、金融仲介機能における銀行の役割を減少させる可能性がある。低需要により、国内の銀行業は取引手続サービスや、手数料サービスに向かってより進化ファイナンス 2017.955対日金融審査についてSPOT

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