ファイナンス 2017年9月号 Vol.53 No.6
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平成28事務年度は稀にみる当たり年であった。5年に1度のIMF(国際通貨基金)による金融部門審査、所謂、FSAP(金融セクター評価プログラム)に遭遇したほか、FSB(金融安定理事会)によるピアレビュー(相互評価)を初めて受けたのである。本稿では、これら対日審査について簡単に紹介する。なお、圧倒的な作業量であったFSAPの対応は、私のデピュティーを務めてくれた石谷良男氏を中心に池田賢志氏、小堀琢也氏、清水まりな氏達が献身的に支えてくれた。また、FSBピアレビューは原田佳典氏、高橋寛行氏、江原斐夫氏達が、補論のコーポレートガバナンスレビューは関谷遥香氏、中山隼太氏、佐々木絵里氏達、FATF(金融活動作業部会)関係は関谷康太氏を中心に大城健司氏、曾根邦幸氏達が活躍してくれた。本稿についても、石谷氏、原田氏、両関谷氏の貴重なご協力を得たことに感謝申し上げる。また、本稿は金融庁等の公式見解ではなく、神田の私見にすぎない。1FSAP(1)FSAPの意義FSAPは、IMFによる金融部門の安定性にかかるサーベランスの最重要プログラムである。アジア金融危機の後、1999年に導入されたが、2008年の国際金融危機を受けて、2009年の見直しにより抜本的に強化され、少なくとも、現存する国際機関による世界の経済関係の審査の中で、最大規模の作業といわれている。特に融資のない先進国向けでこのような深度の作業は余り例をみない。今回の対日審査も、金融庁の主な対面会議だけで150回、参加した当方職員は100人、先方のミッションも大きなものだけで数週間のものが三回あり、20人近くがワシントンDCから参加した。2016年夏から1年近くにわたって、我々とIMFミッションの間で徹底的な議論が行われ、2017年7月26日のIMF理事会を経て、ようやく、結果が確定した。この審査の結果は金融市場が注目しており、落第点をくらうと金融株が暴落するなど、市場に混乱をもたらすリスクがあるし、制度面の是正要求があると、将来にわたって、FSB審査やIMFの年次4条協議でフォローされ、責められ続けるので大変である。我が国も2003年度の対日審査では、銀行の資本不足や監督制度等の不備が厳しく指摘されて、その対応に苦慮したといわれている。他方、IMFスタッフの最先端の手法とグローバルな知見から謙虚に学び、本邦金融部門の改善・強化に活用することも重要であるし、改革努力を後押しするものともなりうる。実際、今回の対日審査の結果は、人口減少、低金利・低成長環境等、日本が直面している課題が共有されたうえで、本邦金融機関の現状は健全と評価しつつも、今後のリスクを適切かつ明確に示し、これに対応すべく金融庁が推進している改革の多くを支持すると共に、幅広く処方箋を示唆している。また、日本が少子高齢化が真っ先に進行する課題先進国であることを捉え、日本の改革努力が日本にとどまらず、世界全体に重要な意義を有していることを謳っている。硬直的で重箱の隅対日金融審査について主計局次長(前金融庁参事官)  神田 眞人Spot0754ファイナンス 2017.9SPOT

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