ファイナンス 2017年9月号 Vol.53 No.6
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及び業務の内容において、これに如何に円滑に対応していくかという一定の課題を残しつつも、運営に求められる基本的な機能という側面からは、安定度を増してきている。」とする。その中では、勤務時間管理、人材不足への対応、施設管理プロセス、安全・防災体制などが取り上げられている。そして、報告の締めくくりに、「縦割りの弊害」と、「適時性の喪失」について警鐘を鳴らしている。一方、主要紙の論説委員等が、OISTを訪問し、関係者や学生と意見交換などを行なった成果が、いくつかの記事になっている*15。朝日新聞7月7日付朝刊の社説余滴で、大牟田透論説委員(科学社説担当)は、「「科学の楽園」の未来は?」との論説を掲載し、「小粒だが、輝きは海外で先に知られ始めた」という。また、「海外の一流大学と遜色ない処遇や研究環境を支えているのは、実は日本政府だ」とし、「民間資金やベンチャーの収益で、政府頼みから脱却する道筋をつけられるか。「最後の楽園」の一瞬の輝きに終わるか。実験の10年は折り返しを過ぎた」とする。日経サイエンス9月号で、日本経済新聞滝順一編集委員は、「沖縄科技大、正念場の6年目」と題する論考を掲載している。小見出しは、「グルース新学長登板、ドイツ流の地元振興・ひとづくりに注力」とある。「壁がない学際的な環境」や研究成果を評価する。「課題もはっきりしてきた」とし、「個々には優れた研究があるが、大学として世界の科学研究における拠点となりうる存在感はまだない。」とし、学長の考えに沿って、増員する場合、「どの分野を手厚くするかが重要になる」と指摘する。「OISTとしての強みを前面に出す戦略が必要な時期だ」と指摘する。「新学長への交代とともに研究力強化に加えて、イノベーション創出や産業振興にも本腰を入れる方向に転進したかにみえる」という。そして、「設置の根拠法の附則には10年をメドに「財政支援のあり方を検討する」とある。これから5年が正念場であるのは間違いない。」と締めくくる。たまたま、8月中旬沖縄に出張したおり、ジュンク堂書店那覇店で本を購入した際、「OISTうちなーんちゅ科学者たちによるサイエンストーク」のチラシを貰った。9月から毎月1人沖縄出身でOISTに所属する科学者がジュンク堂書店で夕方1時間ほど話をするというものだ。この出張中読んだ本の中に「イノベーションはなぜ途絶えたか―科学立国日本の危機」(山口栄一著 ちくま新書 2016年12月)がある。筆者のいう「科学的思考」を社会にきちんと埋め込むことができるかは、イノベーションにおいて大きな課題である。そのような中で、このような地道な取組が沖縄県民に徐々に浸透してうねりとなり、まわりまわって、OISTが沖縄経済をけん引する、日本の代表的なイノベーションの拠点の1つになることを大いに期待したいところだ。(ありうべき誤りは筆者に帰する。OISTに関する資料については、内閣府沖縄振興局沖縄科学技術大学院大学企画推進室の多大なるご協力を得た。記して感謝したい。)プロフィール渡部 晶前内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当及び沖縄科学技術大学院大学企画推進担当)1963年福島県平市(現いわき市)生。京都大学法学部卒。1987年大蔵省入省。福岡市総務企画局長、財務省大臣官房地方課長、(株)地域経済活性化支援機構執行役員などを経て、本年6月28日より沖縄振興開発金融公庫副理事長。いわき応援大使。月刊事業構想9月号に「地域活性化のための戦略と構想:「自由貿易」と分業が基本」を掲載。*15)経済小説の「ハゲタカ」や直木賞候補作となった「コラプティオ」などで知られる人気作家の真山仁氏は、週刊エコノミストの連載「アディオスジャパン」第58回(7月4日号)でOISTを取り上げ、「リゾート村にそびえる象牙の塔の違和感」との辛口の論考を載せている。ファイナンス 2017.953沖縄科学技術大学院大学(OIST:Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University)について SPOT

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