ファイナンス 2017年9月号 Vol.53 No.6
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て定量的な試算を行っている。それによれば、2035年までに、米国、EU、中国、日本の4つの主要市場において、低炭素投資向け債券は累積発行残高4.7~5.6兆ドル、年間発行額6200~7200億ドルに達する可能性がある。•グリーン・ボンド市場を支えるプレイヤーグリーン・ボンドに関わる主要なプレイヤーは発行体と投資家であるが、他にも様々な関係者が市場の発展を支えている。(1)外部評価の提供者前述のように、多くのグリーン・ボンドが依拠するGBPは、債券の発行に際して外部の評価を受けることを推奨しており、発行の約6割が外部評価を受けているとされる*7。評価は、複数のシンクタンクや監査法人等が提供しており、発行体が一定の手数料を支払って評価を依頼する。評価の内容としては、当該債券のGBPとの整合性を確認するものが多いが、ノルウェーのシンクタンクCICERO(シスロ)は、「Shades of Green」という手法を開発し、対象プロジェクトの環境改善効果の度合いに応じて、段階的な評価を行っている*8。格付け会社のS&P及びMoody’sも、グリーン・ボンドの「グリーン性」の格付けを行うサービスを始めている。また、グリーン・ボンドの調査・普及に関し主導的な役割を果たしているNGOのClimate Bonds Initiative(CBI)は、Climate Bonds Standardという基準を策定 し、それに適合したグリーン・ボンドの認証(certication)を行っている*9。(2)証券取引所CBIによれば、2016年末時点で、グリーン・ボンドの72%が上場されている。いくつかの証券取引所は、さらに積極的にグリーン・ボンドの普及を図っており、オスロ、ストックホルム、ロンドン、メキシコ、ルクセンブルグ、イタリアの証券取引所が、グリーン・ボンドに対応した市場のセグメントを設けている。ルクセンブルグは特に、2016年、初のグリーン・ボンド専用の市場としてLuxembourg Green Exchange*10を立ち上げた。(3)インデックス・プロバイダー投資家によるグリーン投資の需要に対応し、グリーン・ボンドを組み込んだインデックスも市場に出回っている。S&P Green Bond Index、Bloomberg Barclays MSCI Green Bond Indexといった例があり、中国でも、ChinaBond China Green Bond Indexなどが提供されている。•グリーン・ボンドの課題グリーン・ボンドが普及するにつれて、その課題も顕在化してきている。関係者の多くが指摘するのは、グリーン・ボンドの統一的な定義・基準の欠如だ。国際的に最も普及しているGBPも、自主的なガイドラインであり、強制力は無い。また、GBPをベースとしながらも、それをアレンジした国別のガイドライン等も存在する。その結果、グリーン・ボンドという名の下に、多様な債券が発行され、中には、その「グリーン性」に疑義が生じるものも出てきている。例えば中国では、中国人民銀行が独自の基準を導入しているが、これによれば、グリーン・ボンドの対象に石炭火力発電所の効率化も含まれている。石炭火力の効率化は、二酸化炭素排出削減につながりうるものであり、これをグリーン・ファイナンスに含める国もあるが、それに否定的な関係者も多い。また、グリーン・ボンドの発行により調達された資金が、実際にグリーン・プロジェクトに充当*6)http://www.oecd.org/environment/mobilising-bond-markets-for-a-low-carbon-transition-9789264272323-en.htm*7)Climate Bonds Initiative (2016) “Bonds and Climate Change:The State of the Market in2016”, https://www.climatebonds.net/resources/publications/bonds-climate-change-2016*8)https://www.cicero.uio.no/en/posts/what-we-do/cicero-shades-of-green*9)https://www.climatebonds.net/standards*10)https://www.bourse.lu/lgx42ファイナンス 2017.9SPOT

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