ファイナンス 2017年9月号 Vol.53 No.6
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プロジェクトの評価・選定プロセスが透明であること、③調達資金が適切に分別管理されていること、④調達資金の使用実績を定期的に報告すること、の全てを満たすべきとされる。また、このGBPとの整合性について、外部者の評価を受けることが、義務的ではないが推奨されるとしている。このGBPの他、これをベースとしたいくつかの国際的、あるいは国別の基準が存在する。中国では中国人民銀行がガイドラインを発出しており、日本でも、2017年3月、環境省が日本版のガイドラインを初めて策定・公表した*3。•グリーン・ボンドのメリットグリーン・ボンドは、発行体、投資家双方にとって様々なメリットがある。発行体のメリットとしてよく挙げられるのが、投資家層の多様化だ。グリーンという特性が付くことによって、通常はその発行体の債券を購入しない投資家が参加する場合がある。また、そうした投資家は、債券を満期まで保有する可能性が高く、安定した保有者となりうる。そしてもちろん、グリーン・ボンドの発行により、その対象となるグリーン・プロジェクトへの取組みをより強くアピールできる。他方、投資家にとっては、通常の債券と同様のリスク・リターン・プロファイルを持つ商品への投資を通じて、収益性を保ちながら、グリーン投資の需要を満たすことができる。なお、グリーン投資の需要とは、社会貢献によるPR効果ももちろんあるが、最近ではそれを超えて、いわゆるESG(environment, social, governance)に配慮した投資が、長期的なビジネスの成長・収益性確保の観点からも注目されている。特に、気候変動に関しては、次回述べるように、中長期的な財務的リスクが指摘されており、こうしたリスクをヘッジする手段ともなりうる。また、株式と異なり、債券の保有者は通常、発行体企業と継続的に接触することは無いが、グリーン・ボンドに関しては、調達された資金がきちんとグリーン・プロジェクトに充てられるよう、発行体が継続的に管理・報告する建前となっている場合が多く、これを通じて、投資家が発行体と接触・対話する機会を持ちうる。だが、純粋に金融商品として見た場合、グリーン・ボンドは果たして有利なのだろうか。発行体にとって、通常の債券に比べて様々な追加的コストが生じることは確かである。前述のGBPを遵守するためには、調達資金の分別管理や資金使途の報告が必要となるし、外部評価を受ける場合には、そのための手数料もかかる。だが、グリーン・ボンドへの投資家の需要は高く、発行に対してオーバーサブスクリプション(需要超過)となるケースが多い。これは、発行体にとって有利に働いていると推測される*4。グリーン・ボンドの価格ないしイールドの、通常の債券との比較については、まだ十分な研究がなされていないが、グリーン・ボンドに対するプレミアムが観測されるとするレポート*5もある。グリーン・ボンドの発行額が急速に伸びているとはいえ、債券市場全体の規模からすれば、1~2%程度に過ぎず、まだニッチな商品であることは否めない。だがそれは他方で、この市場がまだまだ拡大する余地を持っていることを意味する。機関投資家にとっても、インフラへの直接投資は様々な制約があるが、債券は一般的なアセット・クラスであり、はるかに投資しやすい資産である。OECDにおいて、私の属するチームが2017年4月に公表したレポート「Mobilising Bond Markets for a Low-Carbon Transition*6」においては、今後、パリ協定が目指す「2度目標」を達成する上で、債券市場が果たしうる役割につい*3)http://www.env.go.jp/policy/greenbond/gb/greenbond_guideline2017.pdf*4)例えば、2017年1月に発行されたフランスのグリーン国債は、70億ユーロの発行額に対して230億ユーロの需要があり、また、既存の国債の平均と比べ、長い年限かつ低い金利で発行することができた旨、フランス政府は発表している。http://www.gouvernement.fr/en/success-for-france-s-rst-sovereign-green-bond*5)例えば Barclays (2015) “The Cost of Being Green”, https://www.environmental-nance.com/assets/les/US_Credit_Focus_The_Cost_of_Being_Green.pdf; Climate Bonds Initiative (2017) “Green Bond Pricing in the Primary Market:January 2016 – March 2017”, https://www.climatebonds.net/resources/reports/green-bond-pricing-primary-market-jan2016-march2017ファイナンス 2017.941グリーン・ファイナンスの最前線(第2回)SPOT

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