ファイナンス 2017年9月号 Vol.53 No.6
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(文中、意見にわたる部分は筆者個人としての見解である。)前回、OECDが取り組む分野のひとつであるグリーン・ファイナンスを通じて、「環境」と「金融」は不可分のテーマとなりつつあることを述べた。今回は、それを端的に示すテーマとしてグリーン・ボンド(green bond)を紹介したい。•グリーン・ボンドとは世界の金融・市場関係者の、環境金融への関心の高まりを顕著に示すのが、近年におけるグリーン・ボンド市場の飛躍的な拡大だ。グリーン・ボンドとは、それにより調達した資金をもっぱら「グリーン」な事業、すなわち環境改善効果を持つ事業に充てることを前提として発行される債券である。グリーン・ボンドの歴史は比較的新しく、その草分けは、2007年にEIB(欧州投資銀行)が発行した「Climate Awareness Bond」とされる。発行主体は、当初はEIBのほか、世銀などの公的国際金融機関に限られていたが、徐々に、地方自治体、民間金融機関、エネルギー会社、さらに一般事業会社*1など多様化し、2016年12月にはポーランド政府、2017年1月にはフランス政府が、ついに「グリーン国債」を発行した。年間発行額は、2011年には約30億ドルであったが、2015年には約480億ドルへと増加し、さらに2016年には約950億ドルと、1年でほぼ倍増した(図表1参照)。なお、2016年の急拡大の大きな要因は、中国の参入である。中国では、2015年に中国人民銀行がガイドラインを発出するなど、政府主導でグリーン・ボンド市場が整備され、わずか1年で世界最大の発行国となった。グリーン・ボンドは、商品性は基本的に通常の債券と変わらないが、発行体が、その債券を「グリーン・ボンド」と明示し、その資金使途がグリーン・プロジェクトであることを明らかにする点で、通常の債券と区別される。グリーン・ボンドについて国際的に統一的な定義・基準は存在しないが、International Capital Market Association(ICMA)が中心となって取りまとめたガイドラインである「グリーン・ボンド原則」(Green Bond Principles:GBP*2)が、最も広く参照される基準となっている。これによると、グリーン・ボンドは、①資金使途がグリーン・プロジェクトに限定されていること、②対象グリーン・ファイナンスの最前線(第2回)OECD(経済協力開発機構)上級政策分析官  高田 英樹Spot05図表1 グリーン・ボンドの年間発行額(単位:10億ドル)0.010.020.030.040.050.060.070.080.090.0100.02007200820092010201120122013201420152016出所:OECD(2017)“Mobilising Bond Markets for a Low-Carbon Tran-sition”より筆者加工*1)例えば2016年、AppleがIT企業として初めて、15億ドルのグリーン・ボンドを発行した。*2)https://www.icmagroup.org/Regulatory-Policy-and-Market-Practice/green-social-and-sustainability-bonds/green-bond-principles-gbp/40ファイナンス 2017.9SPOT

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