ファイナンス 2017年9月号 Vol.53 No.6
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済連携を進める際には、二国間レベルで協力して個別・具体的な問題を解決し、貿易円滑化を促進することが重要であるとの観点から、税関手続の予見可能性、透明性の向上や税関手続の簡素化を図るための規定を設けるのが通例である。日EU・EPAにおいても、税関手続について透明性及び予見可能性のある適用を確保し、簡素化を図るとともに、通関の迅速化等について規定することとしている。また、貿易円滑化の促進や関税法令違反の防止を図るための税関当局間の協力についても規定することとしている。【知的財産(国境措置)】日本がこれまで締結したEPAにおいては、知的財産に関する規定を設けており、手続の簡素化・透明化、知的財産の保護強化のほか、知的財産権保護の権利行使(エンフォースメント)の強化を図っている。日EU・EPAにおいても、知的財産権侵害物品について、権利者による通関停止の申立てに加えて、税関当局が職権により差止めを行う権限を付与するなど、国境措置に係る権利行使について規定することとしている。【原産地規則】原産地規則は、EPA締約国の原産品であることの認定を行い、またEPA締約国で生産された産品のみならず、実質的に第三国で生産された産品が、ある締約国を経由して別の締約国に輸入される場合にまで、EPA上の特恵税率が適用されることを防ぐ(「迂回輸入」の防止)ことを主な目的として規定されている*17。日EU・EPAにおいても、輸入される産品について、関税の撤廃又は削減(関税上の特恵待遇)の対象となる原産品として認められるための要件及び特恵待遇を受けるための証明手続(自己証明制度の導入)等を規定することとしている。【Anti-Fraud Clause(反不正条項)】日EU・EPAでは、物品ルールとして、原産地規則を遵守せずに特恵関税の適用を受ける組織的な不正行為に対抗するための規定を導入することに合意した。この規定は、関税を免れる不正行為があり、相手国が情報交換等の協力を拒む場合、特恵関税の適用を停止することができるとする。同時に、正当な貿易業者が不利益を被らないことを担保している。EU側は、Anti-Fraud Clause(反不正条項)はEUが第三国に特恵待遇を与える前提条件であるとしており、この規定はEU側の提案をベースとしている。4今後の対応政府としては、今般の大枠合意を踏まえ、 引き続き署名に向けて協議を進めるとともに*18,*19,*20,*21、今回の合意内容や意義等について国民への説明を丁寧に行うほか、経済効果分析も含め、本協定の効果を最大限に活かすために必要な政策の検討に着手することとしている。*17)一般的な内容は以下のとおり。・原産性の基準:協定上原産性が認められる産品(原産品)は、①完全生産品、②原産材料のみから生産された産品、③原産材料と非原産材料から生産された産品。③については、品目別規則(附属書として添付)の要件(付加価値基準、加工工程基準、関税分類変更基準)を満たせば原産性が認められる。・累積:締約国間で行われた生産工程をひとまとまりのものとみなし、原産性の基準を満たしているか否かを確認する。一の国では原産性の基準を満たしていなくても、締約国での生産工程を累積することにより原産性の基準を満たすことが可能。*18)日EU・EPAの発効までには、大枠合意で先送りとなった分野(投資家と国家の紛争解決(ISDS)、個人データの越境移転)の解決に加えて、協定条文を確定させ、署名に向けたEU域内の調整、双方の議会承認手続等を完了させる必要がある。・EU韓国FTA:交渉妥結(2009年7月)、署名(2010年10月)、暫定適用(2011年7月)、正式発効(2015年12月)・EUカナダFTA(CETA):交渉妥結(2014年9月)、署名(2016年10月)、暫定適用(2017年9月予定)*19)ISDSはInvestor-State Dispute Settlementの略称。投資家と投資受入国との間で投資紛争が起きた場合、投資家が当該投資紛争を国際仲裁を通じて解決する。EU域内では一部に、多国籍企業に強い権限を与えるとして反発があり、EU側は「投資裁判所制度(ICS)」の導入を提案している。*20)大枠合意時に発出された、日EU首脳による共同宣言では、2018年の早い時期までに個人データの越境移転の目標を達成するとされている。*21)EUシンガポール自由貿易協定(FTA)について、EU司法裁判所は、EUの専権事項だけでなく、加盟国と権限を共有する分野の条項も含まれる混合協定(Mixed Agreement)と判断しており、ポートフォリオ投資とISDSの2分野についてEUと加盟国が権限を共有しており、協定の正式発効にはEUだけでなく加盟国の承認も必要としている。ファイナンス 2017.931日EU経済連携協定(日EU・EPA)の大枠合意について~財務省所管品目の市場アクセス交渉等に関する結果を中心に~SPOT

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