ファイナンス 2017年9月号 Vol.53 No.6
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EU双方で市場アクセスの更なる改善を講じることに合意した。日EUともに競争力を有する鉄道分野については、日本側は安全注釈(運転上の安全に関連する調達をWTO政府調達協定(GPA)の対象外とすることができる注釈)を撤廃し、EU側はGPAでは日本企業を除外できるとしている車両を含む鉄道産品の一部の調達市場を日本に開放する。また、地方自治体については、日本側は、都道府県・指定都市が設立する地方独立行政法人等に対象を拡大するとともに、中核市の一般競争入札による一定基準額以上の調達(建設サービスを除く)に限り、これまでどおり入札参加者の事業所の所在地を資格要件として定めることを可能としつつ、EU供給者も参加できるようにする。〈国際ルールの確立や協力:日EU間の安定的ビジネス環境創出〉投資、サービス、知的財産、さらには中小企業の海外輸出のツールとして極めて重要である電子商取引・デジタルデータの利活用について高いレベルのルールに合意した。日EU・EPAを契機に、相互の投資の促進や、環境、安全等に関する規制/標準の策定で日EUが協力し、日EUで世界をリードしていくことが期待される*11。3財務省所管品目(酒類、たばこ、塩)の市場アクセス交渉等に関する大枠合意結果の概要(1) 財務省所管品目関連EUにとって、ワインはアルコール飲料であるのみならず、ぶどうという農産物に根ざした産品であることが強く意識されており、他の農産物と同じく共通農業政策の下にある。今回の交渉においては、EU側は欧州を代表する主要輸出品であるワインに関心が高く*12、日本市場におけるチリ産ワインとの競争の観点から、即時撤廃を強く要求する中で、一進一退の厳しい交渉の結果、可能な限り早期の大枠合意の実現という大局的見地から、ワイン関税の即時撤廃を受け入れた*13。(注1)日チリEPA(2007年発効)により、チリ産ワインは段階的に関税撤廃され、2019年にはゼロ関税となる。日チリEPAで関税が下がり、安価になったチリ産ワインはシェア(ボトルワイン輸入量に占める割合)を拡大しており、2016年は29%のトップとなった。他方で、フランス産ワインのシェアは、2008年(日チリEPA発効翌年)に42%だったが、2016年に27%まで下がっている。(参考1)主要国からのボトルワインの輸入状況2008年(日チリEPA発効翌年)2016年輸入量(KL)シェア輸入量(KL)シェアEU85,87272.2%101,80159.1%フランス49,98242.0%45,71126.5%イタリア22,80719.2%32,09318.6%スペイン8,8117.4%19,40311.3%EU以外33,06527.8%70,59440.9%アメリカ7,7396.5%6,5723.8%オーストラリア7,3526.2%6,9224.0%チリ13,29311.2%50,53529.3%(注1)日チリEPAにより、チリ産ワインは段階的に関税撤廃。2019年にはゼロ関税。(注2)日豪EPAにより、豪州産ワインは段階的に関税撤廃。2021年にはゼロ関税。*11)ルールについては、以下の分野が規定されている。物品貿易一般ルール、貿易救済、原産地規則、税関・貿易円滑化、衛生植物検疫(SPS)措置、貿易の技術的障害(TBT)、サービス、投資、電子商取引、資本移動・支払い・移転、反トラスト、国有企業、補助金、知的財産、政府調達、コーポレート・ガバナンス、貿易と持続可能な開発、農業協力、規制協力、中小企業、紛争解決 等コーポレート・ガバナンス、農業協力はTPPにはない分野である。*12)EUの主な農産品の輸出(上位10品目、下線は財務省所管品目)対世界:①ワイン(28,745億円)②チーズ(25,426億円)③蒸留酒(23,989億円)④豚肉(23,943億円)⑤チョコレート菓子(19,559億円)⑥小麦(17,758億円)⑦ペーストリー(16,950億円)⑧牛肉(15,184億円)⑨たばこ(13,822億円)⑩ノンアルコール飲料(12,040億円)〈2013年、EU域内貿易を含む〉対日本:①豚肉(1,649億円)②ワイン(1,186億円)③紙巻たばこ(1,113億円)④製材(874億円)⑤加熱式たばこ(506億円)⑥構造用集成材(324億円)⑦ナチュラルチーズ(309億円)⑧オリーブ油(307億円)⑨ペットフード(277億円)⑩かつお・まぐろ類(生鮮・冷蔵・冷凍)(268億円)〈2016年〉*13)具体的な品目は、スティルワイン(非発泡性ワイン)、スパークリングワイン(発泡性ワイン)、フォーティファイド・ワイン(酒精強化ワイン)、フレーヴァード・ワイン(香味付けワイン)、ぶどう搾汁であり、いずれもぶどうを使用した生産物である。ファイナンス 2017.927日EU経済連携協定(日EU・EPA)の大枠合意について~財務省所管品目の市場アクセス交渉等に関する結果を中心に~SPOT

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