ファイナンス 2017年9月号 Vol.53 No.6
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14%等)や、輸入規制など日本産品がEU市場で直面する課題の改善等を通じ、日本産品のEU域内での競争力を高め、新たな市場を確保することを目指した。交渉の結果、これまで我が国の輸出額の約7割においてEU側から関税を課されていたが、今回の合意によって、ほぼ全ての品目で関税が撤廃された*5。これにより、EU市場における競争条件は大幅に改善されることになる*6。特に自動車・自動車部品については、日本側が求める形で自由化を得ることができ、多くの品目で即時撤廃に合意するとともに、そうでない場合も、撤廃期間の短縮を獲得した*7。また、農林水産分野でも、水産物、牛肉、緑茶をはじめとする輸出重点品目のほとんどの品目で即時撤廃を獲得した。【日本側・主な守りの分野(EU側としては攻めの分野)】複数の農業国をかかえるEU側は、日本の農産品市場に幅広い関心があった。また、自動車、化学品、食品安全、医療機器、医薬品等の非関税措置にも関心があった。特に関税分野では、EU側は、関心品目(乳製品、豚肉・牛肉、ワイン、加工調製品(パスタ、チョコレート菓子、キャンディー)、皮革・履物)につき、TPP以上の対応を求めた。国益を守るぎりぎりの交渉の結果、農林水産分野においては、国家貿易制度の維持、関税削減期間の長期化等の有効な対策を確保した。具体的には、米について関税削減・撤廃等からの「除外」を確保したほか、麦・乳製品の国家貿易制度、糖価調整制度、豚肉の差額関税制度といった基本制度の維持、関税割当やセーフガードなどの有効な措置を獲得している。特に乳製品については、全体としてTPP並に抑えることができた*8。〈GIの相互保護:日本産品の魅力発信・輸出促進〉EU由来の制度である地理的表示(GI:Geographical Indication)*9は、EU側の関心事項だが、日本側も既に法整備し日本GIの保護を強化している中、日EUが互いの農産品及び酒類GIを保護し合うことに合意した*10。今回の合意によって、日本のGIの生産者が、EU側に直接申請手続を行わなくとも、EUにおいて保護されることになる。これにより、日本GIの国際的保護の確立だけでなく、日本産品の輸出の促進にもつながることが期待される。今後、国内法に基づいて公示手続を行い、相互に保護を求めるGI産品が確定される予定である。保護する産品や具体的な保護のルールは、公示手続の結果も踏まえて決めることになる。〈政府調達:互いの市場アクセス改善〉GDPに占める政府調達市場の比重が高い(11~12%。日本は6~7%)EU側は、鉄道分野を始め政府調達に強い関心があり、日本側も鉄道分野を中心にEU政府調達市場に関心がある中で、日*5)日本とEUの間の関税は、EUから日本に対する輸出は7割が無税であるのに対し、日本からEUに対する輸出は7割が有税であり、本交渉ではこの不均衡な状況を一掃するように努めた。*6)特に自動車、電子機器をはじめ、日本企業がEU市場において韓国企業に劣後している(EU韓国FTAは2011年7月に暫定適用)との我が国経済界からの意見がある。*7)乗用車(現行税率10%)は8年目に撤廃。自動車部品(ギヤボックスの現行税率3.0%~4.5%、乗用車タイヤの現行税率4.5%、エンジン関連部品の現行税率2.7%等)に関し、貿易額ベースで92.1%の即時撤廃で合意した。これは、TPPにおける米国の譲許内容(81.3%)及び韓国EU・FTAにおける欧州の譲許内容(90.2%)を上回る高い水準である。*8)乳製品のうち、ソフト系チーズについては、TPPで関税撤廃や関税削減となったものも含め一括して関税割当に留め、枠数量については,意欲ある酪農家の生産拡大の取組に水を差さないよう、国産と輸入を含めた国内消費の動向を考慮して国産の生産拡大と両立できる範囲に留めた。*9)地理的表示制度は、産品の確立した品質や社会的評価がその産品の産地と本質的な繋がりがある場合において、その産地名を独占的に名乗ることができる制度。欧州を中心に古くから国際貿易の主要産品として取引されてきたワインの原産地呼称制度が起源であり、EUは、農産品、ワイン、蒸留酒について独自のGI制度がある。日本は、ぶどう酒と蒸留酒について、国税庁が1995年にWTO協定の一部である「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPS協定)の範囲内でGI制度を施行し、2005年に清酒、2015年に全酒類に対象を拡大。農林水産省が2015年に農産品全般を対象とする独自のGI制度を導入。*10)EUは、これまで国際協定を通じて相手国国内におけるEUのGIの保護を推進している。日本は、TPP協定の実施に伴い、GIの海外での保護を通じた農林水産物の輸出促進を図るため、農産品GI法を改正しており、日EU・EPAは、日本にとって、農産品GIについて、国際協定により相互保護することに合意する初めての協定となる。26ファイナンス 2017.9SPOT

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