ファイナンス 2017年9月号 Vol.53 No.6
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1はじめに2017年(平成29年)7月6日、日本とEU*1は、これまで約4年3カ月にわたり交渉を続けてきた日EU経済連携協定(EPA*2)の大枠合意に至った。世界のGDPの約3割、人口の約1割、世界貿易の約4割を占める日EUによる、世界で最大級の規模の、自由な先進経済圏が新たに誕生することになる。経済的意義としては、日EU・EPAは、相互の市場開放等により貿易・投資を活発化し、雇用創出、企業の競争力強化等を含む経済成長に資するものである。また、我が国の成長戦略の重要な柱であり、日本企業の欧州市場進出を促進する。戦略的意義としては、英国のEU離脱や米国の環太平洋パートナーシップ(TPP)協定からの離脱など、世界的に保護主義的な動きがある中、日EUが自由貿易の旗を高く掲げるとの強い政治的意思を示すことができたことは誇るべき成果であり、世界に対する力強いメッセージでもある。包括的で、高いレベルの、バランスのとれた本協定は、質の高い協定として、自由で公正なルールに基づく、21世紀の経済秩序のモデルとなるものである。また、日本とEUの間で国際貿易・投資を一層促進させ、日本国民、EU市民の双方が大きく裨益する。政府としては、この大きな成果を日EU間で確たるものにすべく、早急に条文を確定し、速やかに協定を締結できるよう努力していく考えである。本稿では、以下、財務省所管品目(酒類、たばこ、塩)の市場アクセス交渉等を中心に、日EU・EPAの大枠合意の概要について説明する。2日EU・EPAの大枠合意のポイント日本とEUは、これまで一進一退の厳しい交渉を続けてきたが、日EUが率先して自由貿易の旗を掲げ続けなければならないとの強い使命感を抱きつつ、互いの国内のセンシティビティに最大限配慮しながら、双方が政治的指導力を発揮し建設的な協議を行った結果、今般の大枠合意に至った*3,*4。〈物品貿易:互いの新規市場の開拓〉【日本側・主な攻めの分野(EU側としては守りの分野)】28か国5億人のEU市場は、海外展開を推し進める日本企業・日本産品にとって大きな魅力となる。日本側は、EU関税の撤廃・削減(鉱工業品等の高関税。特に、乗用車10%、電子機器最大日EU経済連携協定(日EU・EPA)の大枠合意について~財務省所管品目の市場アクセス交渉等に関する結果を中心に~前 関税局関税課経済連携室長  西村 聞多Spot03*1)欧州連合(EU:European Union)とは、欧州連合条約に基づく政治・経済統合体。経済・通貨統合について国家主権の一部を委譲するとともに、域外に対する統一的な通商政策を実施する世界最大の単一市場を形成。加盟国は28か国、総人口は5億820万人(日本の約4倍、米国の1.6倍)、GDPは16兆2204億ドル(日本の3.9倍,米国の0.9倍)。*2)Economic Partnership Agreement の略称。FTAの要素(モノ・サービスの貿易の自由化)に加え、投資や人の移動、二国間協力を含む包括的な経済連携を図る協定である。*3)昨年11月、「日EU経済連携協定交渉に関する主要閣僚会議」を設置し、本閣僚会議の下に萩生田内閣官房副長官を議長とする「日EU経済連携協定交渉推進タスクフォース」(局長級)を立ち上げ、政府一丸となって交渉にあたってきた。*4)大枠合意の具体的な内容は、「日EU経済連携協定(EPA)に関するファクトシート」http://www.mofa.go.jp/mofaj/les/000270758.pdf を参照されたい。ファイナンス 2017.925SPOT

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