ファイナンス 2017年9月号 Vol.53 No.6
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テンシャルを引き出すのが重要だと思いますが、会頭からご覧になって、ポテンシャルを引き出すために必要なものは何でしょうか。三村 私は経済財政諮問会議が設置した「選択する未来」委員会の委員長に就任したとき「50年後の日本を考えて欲しい」との依頼を受けました。現状を前提とした人口動態予測では、50年後の日本の人口は8,800万人くらいになります。しかし、いまからさまざまな対策を講じれば未来は選択できると考えました。そこで、50年後も日本の人口は1億人を死守しようと提言しました。委員会には3つのワーキンググループがあり、そのうちの1つのワーキンググループの長を務めていたのが増田寛也氏です。彼が座長を務めていた民間研究機関の「日本創成会議」は、「消滅可能性都市」を公表しました。人口減少によって存続が困難になるのは896自治体に上るというものです。東京23区でも豊島区が対象となり、当時物議を醸しました。その後、安倍政権の方針として、地方創生が打ち出され、1,800市町村が、1年で自分たちの地方を再生するプランを作ろうということになりました。そのときに、危機意識を持った自治体はさまざまなプランを作り上げました。そこで考えたのは、危機意識のレベルが大事であるということです。自治体はこれまで再生プランなど作ったことはありません。そこで、各地の商工会議所も自治体のプラン作りに積極的に参加することにしました。声を掛けていただいた自治体はもちろんですが、声が掛からない自治体も訪問して、協力を申し出ました。実際に自治体から出てきたプランを見てみると、最初は抽象的でしたが、2年、3年経つと、具体的なプランが増えてきました。優れたプランを作った自治体に共通していたことは、首長が極めて熱心であること、その自治体だけでなく商工会議所、金融機関、マスコミ等といった周囲の関係者を巻き込みながらやっていることです。さらに、その自治体に止まらず、周辺の自治体と連携して実行している点も挙げられます。人材不足を解消するには 生産性の向上が欠かせない―同様に企業も厳しい環境に置かれています。人手不足などの課題に直面している中で中小企業経営者が心がけるべきことは何でしょうか。三村 中小企業にとって、いま一番大きな危機は、人手不足です。日本商工会議所が実施したアンケート調査では、約60%の中小企業が、人手が不足していると答えています(図表1)。同じ調査で、2年前は50%だったものが、昨年55%になり、今年は60%と、どんどん増えてきました。なおかつ、今後10年間を見通すと、生産年齢人口である15歳以上65歳未満の人口は、約560万人減少すると予測されています。平均して毎年56万人の生産年齢人口が減っていくのです。今後は有効求人倍率がますます高くなり、中小企業はさらに人を採用できなくなるでしょう。そこで働き方改革が提唱され、女性の労働力や高齢者の労働力の活用が課題となっています。しかし、これだけでは到底、不足分を賄い切れません。そこで必要なのは生産性の向上です。そう言うとハードルが高いように感じるかもしれませんが、さまざまな手段があります。企業同士が統合・合併するのも一つの方法ですし、仕事の標準化もそうです。さらに、IT・IoTの導入も強力な武器になります。―中小企業のIoT等の認知度はいかがですか。三村 先日も日本商工会議所の夏季政策懇談会を行いましたが、その場でも多くの中小企業の経営者が「IoTって何?」という状況でした。AIにしても自分たちには、まだ遠い世界だと考えています。そこで私たちがまずしなければいけないのは、中小企業の経営者に気づきを与えることだと思っています。ITという便利な道具があること、導入は比較的簡単であること、コストもそれほどかからないツールもあることなどを知ってもらうことが大切です。いま、生産性を向上させるためには、IT化を進めるしかありません。そこで、国に要望し、ITの専門家が2年間で全国1万社を訪問し、アドバイスをしてもらうための予算をとってもらいまし12ファイナンス 2017.9

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