ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
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もJPO派遣制度の活用や、ロスター制度といった潜在的候補者の発掘・育成等が展開されていますが、なかなか大変です。明石さんのお考えをお聞かせください。▷明石 小泉政権の時、福田官房長官のもとで、私が座長としてまとめた「国際平和協力懇談会」の提言に基づいて、特別研究員の制度ができ、こうした「止まり木」に毎年4、5人採用になっています。これは任期が2年にしかありませんが、そこから国際機関に結構出るようになってきました。でも、足りないのは事実で、やはり、若いときから外に行く人を養成し元気づけ、時には、私がそうであったように、外務省に中途入省して4、5年世話になって、今度は国連事務次長レベルで行くとか、そのように行ったり来たりする人を養成してくれるといいと思います。ただ、増えないのは、日本がいい国だからなので厄介です。ある地政学者は、北米大陸でフランスがイギリスより強かった時期があったのに、1803年のルイジアナ・パーチェスでアメリカの領土が広がり、イギリスの勢力が強くなっていったのをこう分析しています。フランス人は母国フランスの方が天気もいいし、葡萄酒も、料理も美味しいし、自分の国に帰るのを夢見ながら、テンポラリーな仕事として北米大陸で植民者となった。他方、イギリス人はイギリスに帰っても天気は悪いし、食べるご飯は不味いし、だから植民地に骨をうずめようという気になっていった。それで、2代目、3代目になると、フランス人は腰掛けなので自分の国に帰ろうとする。それに反し、イギリス人はカナダやアメリカに骨をうずめるようになったということです。日本人はフランス人みたいですね。中国や韓国の人はもっと逞しくて、イギリス人みたいですよ。▶神田 『「独裁者」との交渉術』でグッドリスナーになる重要性を謳っておられ、大賛成です。最近では、日本がG7議長国の時に、金融部門のコミュニケを起草し、纏め上げる仕事をしましたが、積極的に発言して論理的に説得することは当然必要ですが、とにかく各国の意見をよく聞いて信頼感を醸成しつつ、彼らが日本の主張の方向でも国内で説得できる材料を用意してあげることが有効だった経験があります。しかし、日本の外交官や各省代表の中には、沈黙を続けたり、議論の文脈を無視して読み上げる輩、更には、国内向けの犬の遠吠えをやって無視される存在も散見されると批判されます。実は、民間の国際交渉の弱さも同様だと聞きますが、どうなのでしょう。▷明石 交渉ができるようになるには、グッドリスナーになること、他の人に耳を傾けるということが本当に大切です。また、世界を知るだけではなくて、日本という国もよく知り、その上に世界を知る人が必要だということも全く同感です。更には、外に出ても友人を作れるという能力が必要だと思います。色々世話を焼いて、信頼されるようになる。実は、ユーモアも潤滑油として大変大事なのです。最後に紹介したいのですが、新渡戸稲造さんが偉かったことはおっしゃったとおりですけれども、6年国際連盟の事務次長を務めた新渡戸さんの後任に杉村陽太郎さんという人がいます。彼は政務局長をやり、イギリス人のドラモンド事務総長の政治問題の片腕として活躍しました。新渡戸さんもオーランド・ケースというフィンランドとスウェーデンの間の係争を調停したり、大変雄弁な教養人でもあり、文化人でもあったし、誇りにしていい人ですが、国際連盟でよくやったのは杉村陽太郎さんのほうだと思います。その後駐イタリア大使をやって病で亡くなりました。戦前に外務大臣をやり、戦争直後参議院議長もやった佐藤尚武さんは、終戦時に駐ソ大使をしていて、ポツダム宣言受諾の前に、日本はこの戦争に負けるに決まっているから、竹やりで戦争をしようなんて馬鹿なことをしないでとっとと降参してしまえと、外相宛に長い電報を書き、書き終えてよよと泣いたという方です。その佐藤尚武さんは新渡戸稲造も杉村陽太郎もよく知っていて、彼らの仕事ぶりは、佐藤尚武さんの「回顧80年」という回40ファイナンス 2017.8連 載|超有識者場外ヒアリング

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