ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
39/48

ヨークでも数週間の会期を持ち、審議期間も長くなった国連の人権理事会による良い意味での介入も増えているし、広義のガイドラインのようなものを作りながら現在に至っています。〈外交の在り方〉▶神田 明石さんはウイルソンの公開外交の功罪を論じられたことがあります。国民への説明責任や、政策への持続的支持の調達のためには、可能な限りの公開が王道でしょうが、前線で国益を守る仕事をしてきた経験からは、手の内を明かしては駆け引きの交渉に極めて不利であるし、対処方針が国内大衆世論向けの犬の遠吠えになりがちになるし、相手国も説明責任の観点から降りられなくなってしまいますので、交渉中に裸になるのは勘弁です。私もこれまで政府の情報公開を推進してきた一人だと自負していますが、私が関与している金融に関わる交渉は、暴力的な投機が共通の敵であるという理解が共有され、非公開の交渉とするのが国際的常識となっています。明石さんはこの公開の境界をどのように定義されますか。▷明石 全く賛成です。公開外交というのは限界があると思います。実はウイルソンが公開外交と言っていたベルサイユ会議においても現実には秘密外交がかなり公然と行われていました。今は、民主主義の時代であり、各国政府は国民世論にかなり規制されているので、外交交渉の目的や大枠については、国民にきちんと説明する。しかし、交渉の過程については色々発表していたらキリがないし、足を引っ張られます。そこは交渉をやる人達が最善を尽くしてそれぞれの立場を代表して、情報交換、意見交換しながらやる。これを、外から邪魔してはいけない。しかし、結論が決まったならば、再び国民に公開して、国民に最も分かり易い形で説明するのです。つまり、“公開、非公開、公開”という順序でやっていくしかないのではないでしょうか。ウイルソンの公開外交は、アメリカ的理想論に過ぎません。▶神田 ピース・デビデントの実現が持続可能な平和と復興に必須であり、他の紛争解決のインセンティヴにもなりえます。先般、イランに核合意の成果が見えないと、穏健派・国際派が失脚すると恐れ、テヘランに飛んで、銀行監督協力のEOL(書簡交換)を纏めてきました。FATFでのテロ資金対策にも携わっていますが、この観点からもイランの銀行監督強化は有意義です。アフガニスタン復興会議のタスクマネジャーをした際には援助と平和のリンクの見える化に努めました。ここで、明石さんはスリランカ復興開発会議の関連で、マイナス・リンケージは受け入れられないと主張されていますが、場合によると思います。確かに、欧米は硬直的で、国内の納税者やNGOを意識してか、植民地支配の原罪にもかかわらず、時には非現実的なことを押し付けたりすることがみられます。しかし、そうではなく、改革のベンチマークとその実現へのインセンティヴ・メカニズム、特に改革政権に国内ステークホルダーの説得材料を提供することが理論的・経験的に、有効であることに加え、援助側のリソース投入の説明責任から必要なのです。明石さんはどのようにお考えでしょうか。▷明石 これについては単純なことはなかなか言いにくいです。国連を退官して帰国後、日本政府が私をスリランカでの日本の調停外交担当に任命しました。これは実はスリランカ政府側の非公式な示唆に基づくものでした。日本はノルウェー、アメリカ、EUと共に東京の復興会議の共同議長としてスリランカ問題に取り組むことになりましファイナンス 2017.835超有識者場外ヒアリング65連 載|超有識者場外ヒアリング

元のページ  ../index.html#39

このブックを見る