ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
37/48

規定していますが、個人の持つべき資格としては、competence、eciency、integrityの3つが必要とされています。けれども、その次の言葉がdue regardで、地理的配分に関して妥当な考慮も払わなくてはいけない、と政治的な要件を規定しています。過去3年間のgross national incomeの平均に基づいて各国の国連分担金が決められ、それを基準として各国の職員数の上限と下限がほぼ定められています。一つの妥協の産物ですけれども、政治的な基準と個々人の持つべき要件の二つを基本としつつも、やはり世界中から優秀な職員を集めて国際機関を動かしていかなくてはいけないという前提があります。地理的配分の問題と実際の効率性の間で如何にバランスを取っていくかというのは、国際機関のリーダーシップにとって大変なチャレンジだと思います。新事務総長のグテレスさんも、UNHCR(国連難民高等弁務官)として10年間務めた実績もあり、3分の2ぐらい女性からなる10数名の候補の中から見解の発表なども経て選ばれました。トランプ政権は自国の国務省職員に関して批判的な意見を持っているし、米国政府において政治任命される高級職員の採用についてはまだその1割も決まってないということですが、やはり近代官僚制というのは職員、官僚の優秀さに頼るところが多いので、選挙で選ばれた政治家にとっては官僚制をうまく使いこなせるかどうか大きな問題だと思います。▶神田 日本の悲願といえばやはり安保理常任理事国入りです。国際交渉は綺麗ごとではなく、特にルール作りは中枢に入らないと情報も意思決定への参画もないのは常識です。私も世銀時代、理事会の予算委員会や人事委員会メンバーになった頃から初めて真の政策形成に入れましたし、今回、OECDのコーポレートガバナンス委員会議長になって初めて、議長だけの世界、ビューロメンバーだけ、委員会メンバーだけといったハイアラーキーのもと、圧倒的に議長に情報と権限が集中していることを実感しました。さて、『国際連合 軌跡と展望』では、安保理改革の2004年ハイレベル委員会報告とアナン事務総長報告等を紹介しつつ、我が国は財政、軍事、外交の三分野での貢献の条件を十分に満たしているとはいえないと評価されています。先般のGLOBEインタビューでは、今の強力なPKOとよばれる第4世代PKOでは、国連憲章第6章(紛争の平和的解決)に依拠しつつ、第7章(安保理決議による武力行使)にも言及することが増えていると分析し、南スーダンPKOで60数か国と一緒に汗をかいたことを評価しつつも、常任理事国を将来目指す国としては持続力が足りない気がすると指摘されています。反対国が存在する障害もある中、日本にとって大事なのは審議に常に参加し、再選可能な準常任理事国を作り、実績を作ることに加え、常任理事国として何を追及するのか、めざす国際社会のビジョン等の検討が必要とも仰っています。今後、日本が国連を通じて世界に貢献し、国際社会で名誉ある地位を占めるのに必要な努力についてご敷衍ください。▷明石 これは悩ましい問題です。カンボジアPKOに日本が若葉マークで参加して今年でちょうど25周年になりますが、南スーダンに関しては、5年あまり活躍してきた自衛隊が撤収するのはやむを得ない決定だと思います。現地の状況が非常に厳しく、昨年も大統領と元副大統領派の激突がありましたし、自衛隊の南スーダン撤収は国内マスコミの関心事ですが、本質的には枝葉末節なことであり、日本的な現象だといえます。戦後日本は国際社会の暴れ者として行動した過去に別れを告げ、国際社会の良き責任あるメンバーとして再出発したわけです。私は1956年12月18日に重光外相の国連加盟の時の演説をその場で聴きましたが、訥々とした言葉は、国際社会に戻った日本の喜びと強い決意を明確に表していたと思います。外相の言葉はやや理想主義の色が濃かったし、国連に対する期待も大きすぎたかもしれませんが、当時の日本としては非常に正直な覚悟を披瀝したわけで、私はそれを聞いて感動しました。その後の日本は、国連の原加盟国51か国には入っていないし、80番目の新加盟国としてやっファイナンス 2017.833超有識者場外ヒアリング65連 載|超有識者場外ヒアリング

元のページ  ../index.html#37

このブックを見る