ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
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▶神田参事官(以下、神田) 本日はお時間を頂き、誠に有難うございます。明石理事長には屡、勉強会等で国際政治のお話を拝聴させて頂いて参りましたが、本日は比類ない経験から得られた御高見を幅広く読者に共有頂ければ幸いです。〈国際社会の変容〉▶神田 明石さんの『国際連合』を最初に拝読したのは1965年版の岩波新書(青版)でした。その後、75年に改訂、85年に『国際連合 光と影』(黄版)、2006年に『国際連合 軌跡と展望』(新赤版)を上梓されました。この時は20年ぶりの改訂で歴史の激変を再確認したことを想起します。更にそれから10年が経過し、ポピュリズムが世界を席巻する中、国連のようなマルチラテラリズムや知的営みそのものが反大衆的エスタブリッシュメントの象徴として危機に晒されています。先週、OECD主要委員会議長会議で大統領選挙直後のフランス、その後、G7財務大臣会合でイタリアにおりましたが、人類の将来への危機感が共通認識でした。また、御編著『日本の立ち位置を考える』において、困難に直面すると偏狭なナショナリズムが強まり、仮想敵を求める民意が強くなる危険を示唆されています。明石さんの国連像は、国連ロマンティズムの過大美化でも、無力説のような過小評価でもなく、限界と一定の功績を客観的に理解した上で、しっかり活用していくことと理解しました。だとすれば、国連の今後の役割として期待すべきものは何でしょうか。まずは、2006年発刊以降の10年に惹起した構造的な変化について、総論的にご教示ください。▷明石理事長(以下、明石) この10年、特にここ2、3年のテンポが非常に早くなっており、懸念すべきことが明らかに増えています。反グローバリズム、ナショナリズムが強まるだけでなく、明石 康先生(写真右)元国連事務次長(国際文化会館理事長)AKASHI Yasushi東京大学卒、バージニア大学大学院修了。1957年国連入り。広報や軍縮担当の国連事務次長、カンボジアや旧ユーゴスラビア担当の事務総長特別代表を歴任。1997年末、人道問題担当事務次長を最後に退官。現在、(公財)国際文化会館理事長、(公財)ジョイセフ会長、(公財)日本国際連合協会副会長、スリランカ平和構築担当日本政府代表等。主な著書に『国際連合―軌跡と展望』(岩波新書)、『戦争と平和の谷間で―国境を超えた群像』(岩波書店)、『「独裁者」との交渉術』(集英社新書)など。神田 眞人 Kanda Masato 財務省主計局次長東京大学法学部卒業、オックスフォード大学経済学修士(M.Phil)。世界銀行審議役、財務省主計局主査(運輸、郵政担当を歴任)、国際局為替市場課補佐、大臣官房秘書課企画官、世界銀行理事代理、主計局給与共済課長、主計官(文部科学、経済産業、環境、司法・警察、財務担当を歴任)、国際局開発政策課長、同総務課長、金融庁参事官等を経て現職。OECDコーポレートガバナンス委員会議長等を兼務。主著に「強い文教、強い科学技術に向けて」、「国際金融のフロンティア」、「超有識者達の洞察と視座」、「世界銀行超活用法序説」等。28ファイナンス 2017.8超有識者 場外ヒアリング国際交渉編65連 載|超有識者場外ヒアリング

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