ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
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なお、グリア事務総長はメキシコ出身であり、加盟拡大の積極論者である。非加盟国への協力・関与もっとも、OECDは、「加盟未満」の制度も存分に用い、非加盟国の要請に積極的に応じてきている。「アソシエート」など準会員的な資格を通じた非加盟国の専門委員会への参加、「キー・パートナー」(中国、インドネシア、インド、ブラジル、南ア)との特恵的協力、カザフスタンやモロッコ、タイ等希望する国との間で優先分野を絞った国別プログラム、東南アジアや中南米、南東欧や中東北アフリカ等に対する地域ワイドの協力などである。このように、OECDの有用性や影響力は、実体上は、加盟国の枠を超えてグローバルに広がってきている。望ましい将来像を巡る「戦略的熟考」これからは、力量のある国を秩序立てて加盟させる必要がある。この項の小見出しの標語(ユニバーサルではないがグローバルなネットワーク)とは、OECDは、国連のような普遍的な大組織を目指すべきではなく、国際経済で実質的に重きをなす筋肉質な機関を目指そうという趣旨である。そこで、昨年の閣僚理事会は、OECDの望ましい将来像とそれを実現するための方法を今一度立ち止まって考えるべしとする「戦略的熟考」を一年かけて行うよう指示した。これを受け、すべての加盟国の大使と事務総長が参加しての作業部会を12回も開き、喧々諤々議論した。本年の閣僚理事会では、作業部会の議長(カナダ大使)が、「熟考」の成果として、候補国についての加盟審査を開始することを理事会が決める際に用いる判断枠組や手続を報告し、承認された。加盟する意欲を表明した国が有資格かどうかを理事会が判断する要素には、加盟審査を開始する時点での候補国の特性(民主主義や市場経済という同質的な価値を共有しているか)、OECDの主たる基準・ルール(例えば、資本移動自由化規約や外国公務員贈賄防止条約)への加入状況や専門委員会への参加実態、そして、経済規模や生活水準といった客観的指標が含まれる。手続面では、最高意思決定機関である理事会の権限、決定に際しての全会一致原則、それを補佐する事務総長の役割を定めた。また、上限でも目標でもないと断りつつ、約50カ国を将来の適正規模と見込んだ。さらに、既に現在の35カ国でも、伝統的な全会一致による意思決定方式は正直言って限界に達しつつあるところ、加盟拡大と併せて組織運営(ガバナンス)を見直していくことを確認した。これに基づき、7月から早速、既に加盟意欲を公式に表明しているブラジル、アルゼンチン、ペルー、ルーマニア、クロアチア、ブルガリアの6カ国につき議論が始まっている。この顔ぶれを見て、ちょっと待った、と慢性的なアジア不在に失望と違和感を共有される向きもあるだろう。この問題意識はOECD内でも長く共有されてきており、2007年には東南アジアを「戦略的優先地域」として将来の加盟国の特定を視野に入れ、関係を強化していくことを確認した。また、2014年の閣僚理事会では、安倍総理の後見の下で「東南アジア地域プログラム」が創設された。今般の「戦略的熟考」の過程でも、アジアの声と活力を取り込み、OECDの質の高い基準を国内改革や地域統合に役立てる地政学的意義を我が方から説明し、多くの加盟国がこれに賛同し、東南アジアの加盟を見据えた戦略的優先性を改めて確認する成果につなげた。にもかかわらずこれまでのところ、東南アジアは「笛吹けど踊らず」だった。50という数字で、バスの優先席がいつまでも空いているわけではないことが示唆された今、キー・パートナー国の一角を占めるインドネシア、本来大本命であるべきシンガポール、国別プログラムを開始したタイ、TPP交渉に参加し改革意欲溢れるベトナムやマレーシアなどは、加盟を真剣に考える段階に来ている。3若干の補遺最後に楽屋話を三題だけ。ひとつは、会合の成果文書について。文書の調整は難航を極めた末、閣僚声明を採択し、貿易と気候変動に関しては、議長の権限と責任で議長声26ファイナンス 2017.8SPOT

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