ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
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前編では、閣僚理事会の成果の一つ目の柱、すなわち、OECDが総力を上げて紡いだ、グローバル化の功罪に関する基本的論理(ナラティブ)を概観した。後編では残り二つの柱を説明したい。1グローバル・スタンダード・セッターとしての機能強化―『シンク(考える)タンクからドゥー(行動する)タンクへ』(標語その2)閣僚理事会の大きな成果の二つ目は、国際的な基準を設定する機関(グローバル・スタンダード・セッター)としての機能強化である。この中身は3つあり、税源浸食及び利益移転(BEPS)防止措置実施条約の署名、各種国際基準の「卸下し」、そして、他の国際機関・フォーラムとの連携強化である。OECDは創設以来、何と450件もの国際基準(規約、宣言及び指針などの名称、法的拘束力や形式など様々だ。)を作ってきた。その業績は自他共に認めるところだが、国連やWTOを含め多国間主義の有効性が厳しく問われる国際機関の「適者生存」の時代にあって、OECDはこれまでの実績に安閑とせず、目に見える成果を産み出すべくより積極的に行動すべきだ、との問題意識は、昨年三期目(1期5年)に入ったグリア事務総長の意欲的な各種取組の原動力となっている。中堅企業のワンマン経営者然として、営業部長や広報部長を兼ねて世界中を飛び回る同氏の造語を借りれば、「シンク(考える)タンクからドゥー(行動する)タンク」への脱皮だ。本年夏を以て任期を終えた玉木林太郎事務次長(元財務官)は、いみじくも、グローバル化や技術革新に伴う経済社会条件の変化と企業や個人の新たな利益追求行為は、まるで「逃げ水」のように既存の制度が予定した範囲の外へ外へと向かって展開し、当局の規制や監視が後手後手に回っている、と指摘した。成長と分配の調和を保ちながら公平な競争環境を整えるという公共政策の至難の業を、OECDは各種基準の策定と伝播、各国政府の国内実施と相互監視(ピア・レビュー)という国際協調サイクルの中で実現しようとしている。グリア氏の強引な手法は、足元でしばしば問題視されているが、卓越した先見性と指導力は端倪すべからざるものがある。株主や社員が剛腕社長の背中を必死に追いかけている。その遥か先を、実は、世界が走っているという形容もあながち誇張ではないだろう。BEPS防止措置実施条約の署名行動を志向する成果の筆頭を飾るのは、OECDの枠を超えて67の国と地域の代表が一堂に会して署名した、BEPS防止措置実施条約だ。パナマ文書問題で脚光を浴びたBEPSプロジェクトは、OECDの有用性、影響力及び正統性のすべてを向上させた記念碑的事業である。その内容は、浅川雅嗣財務官の租税委員会議長としての献身ぶりと併せ、本誌でもタイムリーに解説されてきているので詳細は割愛するが、この条約により、租税条約の濫用等を通じた租税回避行為を防止し、二重課税など不確実性を排除するための措置につい〈戦略的岐路に立つOECD、グローバリズムの苦悩と挑戦〉2017年閣僚理事会の概要と意義 (後編)OECD日本政府代表部参事官  安部 憲明Spot03ファイナンス 2017.823SPOT

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