ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
24/48

•金融機関の活動グリーン・ファイナンスの資金の出し手のうち、民間主体として代表的なのは、やはり銀行等の金融機関であり、G20におけるグリーン・インフラ資金の約8割は金融機関により提供されている*6。今や、世界の主要金融機関のほとんどが、グリーン・ファイナンスや、いわゆるサステナブル・ファイナンス(経済・社会の持続可能性に配慮した金融)の専門部署を設け、再生可能エネルギー等に関する融資・投資を行っている。例えばシティグループは2015年に、10年間で1000億ドルの気候変動対策・環境関連ファイナンスを行う目標を発表した*7。同様に、バンク・オブ・アメリカ*8は2025年までに1250億ドルの低炭素関連等のファイナンスを、ゴールドマン・サックス*9は1500億ドルのクリーン・エネルギー投資を行う目標を掲げている。•機関投資家の役割*10前述のようにグリーン・ファイナンスの主要な担い手は銀行等の金融機関であるが、2008年のリーマンショックをはじめとする金融危機以降、金融規制も厳しくなる中、インフラといったリスクのある資産への投資のハードルが高くなっている。その一方で、重要性を増しているのが年金基金や生命保険会社等の機関投資家(institutional investor)である。機関投資家の役割が注目される第一の理由は、その資金の大きさだ。OECDでは、2013年時点でOECD加盟国内の機関投資家が92.6兆ドルの資産を運用していると推計*11しており、世界全体では100兆ドルを超える資金が機関投資家によって運用されているとみられている。また、機関投資家にとって、再生可能エネルギーなどのグリーン・インフラは魅力的な投資対象資産となりうる。インフラは一度造られると30年、40年といった長期にわたって存続し、収益を生み続けるが、こうした性質は、年金基金や生命保険会社など、長期の資産運用を行う機関投資家に適している。インフラ資産は、株式や債券などの金融商品と異なった価格の動きを示すため、ポートフォリオの多様化によるリスク分散にも役立つ。そして、今後の低炭素経済移行の流れの中で、化石燃料のインフラは価値のない座礁資産(stranded asset)*12となる恐れがあるのに対し、グリーン・インフラは、将来、より有利な資産となっていく可能性が高い。インフラはこのように機関投資家にとって魅力的となりうる資産であるにもかかわらず、これまで機関投資家はその資金のごく一部しかインフラに振り向けていない。OECDが大規模な年金基金を対象に行った調査*13によれば、それらの年金基金の運用資産のうち、インフラへの直接投資に振り向けられているのは2015年時点で約1%に過ぎず、そのうちグリーン・インフラに向かうものは、さらにわずかな割合と見られている。*6)UNEP (2016) “Greening the Banking System:Taking Stock of G20 Green Banking Market Practice”, http://wedocs.unep.org//handle/20.500.11822/10604*7)http://www.citigroup.com/citi/news/2015/150218a.htm*8)https://about.bankofamerica.com/en-us/what-guides-us/environmental-sustainability.html#fbid=wzQTnAuyvsD*9)http://www.goldmansachs.com/our-thinking/new-energy-landscape/low-carbon-economy*10)機関投資家の役割について、詳細は以下を参照。OECD (2015) “Mapping Channels to Mobilise Institutional Investment in Sustainable Energy”, http://www.oecd-ilibrary.org/environment/mapping-channels-to-mobilise-institutional-investment-in-sustainable-energy_9789264224582-en; OECD (2016) “Progress report on approaches to mobilising institutional investment for green infrastructure”, http://unepinquiry.org/wp-content/uploads/2016/09/11_Progress_Report_on_Approaches_to_Mobilising_Institutional_Investment_for_Green_Infrastructure.pdf*11)ただし、この数字には重複計上が含まれうることに留意。例えば、年金基金が投資ファンドに投資し、さらにそのファンドがその資金を再投資している場合、同じ資金が2回計上されることになる。*12)座礁資産については次回以降で述べる。*13)OECD (2016), “Annual Survey of Large Pension Funds and Public Pension Reserve Funds:Report on Pension Funds’ Long-term Investments”, http://www.oecd.org/daf/n/private-pensions/2015-Large-Pension-Funds-Survey.pdf20ファイナンス 2017.8SPOT

元のページ  ../index.html#24

このブックを見る