ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
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(文中、意見にわたる部分は筆者個人としての見解である。)私は財務省からの出向により、2015年7月から、パリのOECD(経済協力開発機構)事務局で勤務している。所属は環境局(Environment Directorate)だ。環境局の業務というと、財務省の業務からは縁遠いように思われるかもしれないが、私がOECDで担当するのは、環境金融(グリーン・ファイナンス)という分野であり、環境政策にとどまらず、金融・市場政策に深く関わっている。これは、次回以降述べるように、国際的に、財務省や中央銀行が正面から取り扱うテーマとなりつつある。•パリ協定の締結グリーン・ファイナンスは、環境に関連する様々な分野が対象となりうるが、私が主に携わっているのは気候変動対策の分野*1であり、具体的には、例えば再生可能エネルギー等の事業への投資を促進するための政策を検討している。気候変動対策に関しては、近年、大きな進展があった。ちょうど私がOECDに赴任した2015年に、第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)が、パリ郊外の街ル・ブルジェで開催された。そして、12月12日、気候変動対策に関する新たな国際的法的枠組みであるパリ協定(Paris Agreement)が合意されたのである。パリ協定は、長期的な目標として、温暖化による破滅的な影響を免れるために必要とされる「2度目標」を定めている。すなわち、19世紀の産業革命による工業化以前と比較して、平均気温の上昇を、「2度」を「十分に下回る」(well below)水準に抑えることとし、さらに、1.5度まで制限する「努力」を継続する(pursue eorts)こととしている。そのために、今世紀後半において、人為的な温室効果ガス排出量を吸収量とバランスさせる、すなわち実質ゼロにすることをも明記している。これを実現するためには、エネルギーを初めとする経済・社会インフラの抜本的な転換が必要となる。そのために求められるのが、インフラ投資等のための資金だ。OECDが2017年のG20議長国の依頼により作成したレポート*2によれば、「2度目標」と整合的なシナリオにおいては、2016年から2030年までの間に、毎年平均6.9兆ドルのインフラ投資が必要となる。もっとも、現状の延長である参照シナリオにおいても、毎年6.3兆ドルのインフラ投資が必要とされている。気候変動対策のために追加的に必要となる金額は、相対的にはそれほど大きくなく、化石燃料の節約等によるメリットの方が上回ると試算される。だが、こうした「グリーン・インフラ」の便益は長期にわたり徐々に発現するのに対して、それに対する投資は、前倒しで必要となるため、その資金をどう調達するかが問題となる。パリ協定は、世界の資金の流れを、この低炭素経済への移行に適合させることを定めている。ここでいう資金には、政府や公的国際金融機関が支出する公的資金も含まれる。しかし、各国に財政的制約もある中、それだけでは到底不十分であり、民間資金の大幅な動員が不可欠である。すでに民グリーン・ファイナンスの最前線OECD(経済協力開発機構)上級政策分析官  高田 英樹Spot02*1)気候変動対策の文脈では、climate nanceという言葉がgreen nanceとほぼ同義的に使われるが、後者は気候変動以外の環境分野も対象としており、やや意味が広い。*2)OECD (2017) “Investing in Climate, Investing in Growth”, http://www.oecd.org/env/cc/g20-climate18ファイナンス 2017.8SPOT

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