ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
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を占める。この割合は、タイと他国の間の貿易と比べると相当程度大きく、円=バーツの交換ニーズはそれなりに大きいと思われる。他方、タイは非居住者のタイバーツ建て預金口座の残高上限を3億バーツと規制しており、非居住者はバーツを保有し辛い状況にある。規制緩和と合わせる形であれば、日本円=タイバーツの直接交換市場を育成できる可能性があるのではないかと考えている。今後、タイとの二国間金融協議において、直接交換市場の実現に向けた課題の整理が求められる。(3)東京市場の多通貨決済化の可能性東京では、円建て債券の決済においてはDVP決済、すなわち証券の引き渡しと代金の支払いが同時に起こる決済が行われており、決済リスクがない(図表3)。他方、外貨建て債券の場合は、資金決済が海外で行われることから、DVP決済が実現しておらず、東京市場における外貨建て債券の発行流通の阻害要因となっている。東京で外貨建て債券取引のDVP決済が行われるために、まず、東京において外貨決済が可能となることが必要と考えられる。外貨決済を可能とする上で、香港の事例が参考になる。香港においては、民間銀行が資金決済会社となることで、香港ドルに加え、米ドル、ユーロ、人民元のDVP決済が可能となっている。仮に、東京市場で多通貨決済が導入できれば、日本企業の外貨調達ニーズと日本の外貨建て投資需要のマッチングも可能となる。また、長期的には、東京におけるアジア通貨の取引ニーズ拡大も想定され、東京市場がアジアの通貨金融ハブとして発展する素地にもなりうるのではないか。こうした展望を踏まえれば、まずは、香港における多通貨決済の仕組みや運用実態の調査が有用と考える。なお、商品先物市場においても、円滑な外貨建て取引の実現が課題とされている*4。東京市場で多通貨決済が可能となった場合には、金融市場のみならず、商品先物市場の活性化につながる可能性もある。東京でドル決済が可能となれば、円の地位が更に低下するとの懸念が示される可能性もあるが、国民経済の根幹を形成する円がドルにとって代わられることはおよそ考えられないのではないか。むしろ、外貨建ての証券流通や商品先物取引など、従来東京市場で行われてこなかった金融取引が新たに可能となる付加的なメリットをもたらすものと考えるのが適切である。また、東京市場のインフラ整備が進み、円と他通貨の為替取引などが更に効率化すれば、結果的に、円の利便性、円の信認が向上し、国際的な取引における円利用が促進されることになるのではないか、とも言える。以上のとおり、中長期的に検討すべき課題についてご紹介してきた。これらは、政策として具体化する前の基礎研究課題と位置づけられるもので*4)経済産業省の産業構造審議会では、商品先物市場において、「海外との取引を円滑に行いうるよう、外貨建て取引を実現すべき」という提言を行っている。また、LNG先物市場の創設にあたっても、ドル建て取引の仕組みの構築が課題とされている。図表2 クロス通貨直接交換のイメージ(航空路線の比喩)図表2-1 非規制通貨間図表2-2 規制通貨間青森(地方空港①)=人民元(クロス通貨①)東京(ハブ空港) =ドル山口(地方空港②)=円(クロス通貨②)1便/1日5便/1日5便/1日3便/1日1便/1日1便/1日東京(ハブ空港) =ドル青森(地方空港①)=タイバーツ(クロス通貨①)山口(地方空港②)=マレーシアリンギット(クロス通貨②)16ファイナンス 2017.8SPOT

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