ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
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貨建ての資金調達は増加している。しかしながら、東京市場では、外貨建ての債券発行環境が整備されておらず、日本企業は、海外で外貨資金を調達している。いずれ、アジア現地通貨の規制緩和が進んだ場合には、日本企業やアジアの企業が、豊富な国民資産を有する東京市場において、アジア現地通貨建ての債券発行を行っていくことも想定される。このための環境、即ち、外貨建て債券の発行・流通のインフラを整備していくことが、東京市場の活性化策の一つとして挙げられるのではないか。6円とアジア通貨の利便性向上策 (現在取組中の課題)以上、円、アジア通貨、東京市場を巡る情勢を説明してきたが、それらを踏まえ、円とアジア通貨の利便性向上策として現在取り組まれている課題をご説明したい。それぞれの取組を説明する前に、まず、円とアジア通貨の利便性向上の意義をまとめておきたい。通貨の利便性向上は、一義的にはそれぞれの通貨当局の政策努力によるものである。にもかかわらず、日本にとっては、円のみならずアジア通貨の利便性向上には大きな意味があると考えられる(図表1)。日本は、アジアの先進国として、アジアの通貨当局と連携しながら、円とアジア通貨の利便性を向上させるリーダーシップを担っていくことが今後の政策の方向性として考えられる。(1)円決済のグローバル化・円為替取引の効率化まず、円決済のグローバル化の取り組みとして、日銀ネット高度化が挙げられる。海外との時差をカバーする日銀ネット稼働時間の更なる延長や、端末の海外設置を認めるなどの取組により、海外から日本、海外から海外への円送金等の利便性が高まると考えられる。続いて、円為替取引の効率化の取り組みとして、円と人民元では、ドルを介さない直接交換市場が2012年より創設されている。取引の現状をヒアリングすると、活発に使われている状況ではないが、人民元の利用が今後更に伸びてくれば、活用の可能性が広がってくると期待される。さらに、民間における国際「ロー・バリュー送金」は、小口送金分野において、時間が多少かかっても手数料を低くする試みである。従来のコルレス銀行を介した送金では、中継銀行が入れば、その都度手数料が発生するため、送金にかかるコストが高くなるという課題がある。他方、新たな取組である国際「ロー・バリュー送金」の取組では、接続業者と決済銀行に決済を集約し、手数料低減をはかっている。これも、円為替取引の効率性を高める取組として評価できる。(2)セーフティネットの充実次に、国際金融面におけるセーフティネットについて説明する。セーフティネットの構成要素として、各国の外貨準備、二国間通貨スワップ取極(BSA)、地域金融取極、IMFの4つが挙げられる。地域金融取極の例として、ASEAN+3におけるチェンマイ・イニシアティブが挙げられる。二国間通貨スワップ取極として、日本はASEAN諸国との間で、現地通貨を対価として短期のドル資金を融通する取極を締結している。2017年5月、アジア開発銀行の横浜総会の機会に発表したとおり、既存のBSAについて、円でも引き出し可能とするとともに、ASEAN諸国に対して、新たに短期流動性危機に対応する最大4兆円規模のBSAを創設し、これも円・ドルの選択を可能にするよう提案した。ASEAN金融統合や日本企業の進出が進む中、アジア唯一のハードカレンシーである円の調達を容易にすることは、中期的なドル依存の低減を促し、域内の金融安定に貢献すると考えられる。また、ASEAN諸国に図表1 円とアジア通貨の利便性向上がもたらすメリット円の利便性向上がもたらすメリット(例)アジア通貨の利便性向上がもたらすメリット(例)日本企業迅速な円決済による財務の効率性向上、為替取引コストの削減アジア現地通貨の円滑な調達、効率的な資金管理邦銀海外での円建て融資の拡大、海外での円決済ビジネスチャンスアジア企業の資金調達に係るビジネスチャンス東京市場グローバルな円利用の拡大による東京市場の活性化アジアの通貨・金融ハブとしての発展の可能性14ファイナンス 2017.8SPOT

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