ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
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使用を選好するのは自然と考えられる。円の利便性を考える上では、こうしたニーズにも着目していく必要があるのではないか。アジアにおける円建て送金に着目すると、金融機関へのヒアリングによれば、完了までに2日程度かかる例が多い。他方で、企業の資金効率向上や、急ぎの円送金の対応が求められるケースなど、円の即日着金ニーズは高く、円送金の迅速化が課題として位置づけられる。4アジア通貨を巡る状況次に、アジア通貨を巡る状況を説明する。近年、アジアにおいてドル依存脱却、自国通貨使用推進の動きが見られている*1。更に、自国内決済のみならず、貿易においても自国通貨での決済を推進している*2。こうしたアジアの動きに対応して、日本企業にとっても、アジア現地通貨の利用ニーズが増加している。アジア進出した日本企業へのアンケート*3結果によれば、4割弱の企業が、国際資金決済におけるアジア通貨のウェイトが上昇していると答えている。また、アジアに進出した中小企業が地場銀行から現地通貨を借り入れるニーズも出てきており、日本の信用金庫が、保証を提供するなど、現地通貨調達を支援している例もある。JBICも、日本企業の海外展開事業に対して、アジア現地通貨建ての出融資を実施しており、更に、昨年の法改正では、JBICの現地通貨調達手段を充実させる観点から、民間銀行からの現地通貨建て長期借入を可能とした。邦銀においても、現地通貨の扱いが増加している。例えば、韓国においては邦銀の貸出残高は増加基調にあり、3メガバンク合わせて約2.2兆円(2015年末)。こうした貸出の為の資金調達手法として、足元ではウォン預金の獲得にも注力していることがうかがえる(3メガバンクのウォン預金は約1,400億円(2014年末)から約5,900億円(2015年末)に増加。)。次に、東南アジア各国の現地通貨建て債券市場は、アジア金融危機後の反省もあり、現地通貨建て債券の発行は拡大しており、2016年末には債券残高約1兆ドルと、2002年のアジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI:Asian Bond Markets Initiative)創設から約4倍に増加している。他方で、アジアにおけるインフラプロジェクト推進にあたっては引き続き通貨面での制約が存在している。アジア開発銀行による分析によれば、アジアにおける交通インフラPPPにとり、現地通貨建ての長期融資の不足が課題の一つとされている。また、ベトナムにおけるインフラプロジェクトの制約要因として、事業収入がドン払いとなるケースで、外貨兌換保証の上限が設定されていることを課題として挙げる声もある。アジアにおけるインフラプロジェクトの推進にあたっては、現地通貨建ての長期融資や資本市場の発展や、十分な外貨交換性とそれを担保するセーフティネットの構築が求められると言えるのではないか。5東京市場を巡る状況次に、東京市場を巡る状況を説明する。まず、東京市場は、世界で最も早く開く主要な市場である。この東京市場の強みの一つとして、市場の背後にある、1,800兆円に上る日本国民の金融資産が挙げられる。また、投資信託の純資産残高のうち、外貨建て資産への投資は足許で3割程度だが、今後も、外貨建て資産への投資のニーズは大きいと考えられ、東京市場による多様な投資機会の提供が引き続き求められる。日本企業の資金調達に目を向けると、近年、外*1)例えば、インドネシア、マレーシアでは国内での自国通貨使用を義務化しており、また、ベトナムではドン以外の通貨建て価格表示の禁止・ドル預金金利をゼロにするといった措置が取られている。*2)タイ、マレーシアでは、二国間の現地通貨建て決済促進のための枠組みであるLCSF(Local Currency Settlement Framework)を2016年3月に発表しており、インドネシアも参加する動きを見せている。参加国で指定された銀行は、預金や貿易金融など、従来規制されていたサービスが可能となる一方、バーツ=リンギットのクォートの提供が求められる。部分的な規制緩和を導入しながら、直接交換市場を育成しようという取り組みと捉えることができる。*3)みずほ総合研究所「国際資金決済サービスの向上に関する調査研究」報告書より。(アンケート調査の実施期間は2013年7-8月、有効回答数は335社)ファイナンス 2017.813円とアジア通貨の更なる利便性向上策の検討 ―第36回外国為替等分科会での事務局報告について―SPOT

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