ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
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1はじめに2017年6月に行われた関税・外国為替等審議会の第36回外国為替等分科会では、事務局から「円とアジア通貨の更なる利便性向上策の検討」を、日本銀行から「アジア・日本の成長と金融インフラ」を発表し、アジア地域における円やアジア通貨の利用拡大に向けて活発な議論が行われた。本稿では、そのうち「円とアジア通貨の更なる利便性向上策の検討」について、内容の概観を行いたい。まず、今回の発表テーマの背景となる問題意識を簡単にご紹介する。狙いは大きく二つある。第一に、日本企業の海外進出が拡大している中、いま一度、「円の利便性」を見つめ直し、企業の海外展開を後押しする成長戦略が考えられないか、である。政府は円の利用を民間主体に強制できないが、円の利便性向上は可能である。利便性が向上すれば、おのずと利用も進むと考えられる。また、通貨当局である財務省が、円の利便性向上の音頭をとることによって、金融庁、日銀、民間の決済システムや経済主体など、各方面の関係者の理解と協力が進むことへの期待も込めている。第二に、アジアの成長を如何に日本に取り込んでいくかとの問題意識である。後に述べるように、今後、日本企業や日本の金融機関がアジアの通貨を利用する局面は増えてくると思われる。したがって、円のみならず、アジア通貨の利便性向上を考えていくことが益々重要になってくる。アジア通貨の利用拡大まで視野に入れる点は、従来の「円の国際化」の議論にはなかった視点である。2アジアとともに成長する日本経済日本は、人口減少下において潜在成長率の低下が問題となっているが、足元では海外からの所得が増加基調にある。背景としては、対外直接投資残高の増加が挙げられ、2016年末には154兆円まで積みあがっている。地域別には、アジア向けの直接投資が着実に増加しており、直接投資残高総額におけるアジア向けの割合は、2000年に2割弱であったのが、3割まで拡大している。こうした状況から、日本の経済成長は、今後とも対アジアの貿易・投資によって牽引されていく可能性が高い。また、日本企業のアジア進出パターンは多様化している。グローバルなサプライチェーンに組み込まれた日系大手企業のアジア子会社はドル利用が多いと考えられるが、電子部品やバルブの継手等は、日本から輸入した部材を現地で加工した上で、完成品をそのまま日本へ輸出する例も見られるようになっている。こうした取引では、円の利用が最も合理的なのではないかと考えられ、円の海外送金等の利便性を高めるニーズがあると考えられる。3円を巡る状況まず、日本の輸出入決済における円の利用状況であるが、日本の貿易取引全体で見ると、円建ての比率は、輸出では4割弱、輸入では2割~3割程度で推移している。他方、ある信用金庫にヒアリングしたところ、顧客の貿易取引は、輸出で7割、輸入で3割が円建てとなっており、日本全体の平均値よりも明らかに高かった。普段ドルを扱っていない中小企業が、国際取引においても円の円とアジア通貨の 更なる利便性向上策の検討―第36回外国為替等分科会での事務局報告について―国際局調査課 係長  津野 大紀Spot0112ファイナンス 2017.8SPOT

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