ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
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人口動態の予測外の変化と医療費本フォーラムのセッション3にて、財務総合政策研究所の分析を基にした発表を行ったが、その医療費支出の予測と実際のギャップについて紹介する。日本においては、政府の予測を超えて急速に高齢化が進んだことがどのような影響を与えたか。1986年時の人口予測を基に、1989年から2013年までの医療費の予測値と、現実の医療費を比較した。まず、一人当たり医療費の予測値は、平均的な所得の増加すなわち一人当たり名目GDP成長率と同じ割合で増加すると仮定したが、実際の一人当たり医療費は、高齢世代とその他の世代ともに、経済成長率よりも高い伸び率で増加した(図1)。この一人当たり医療費の予測値に、1986年時の人口予測を加味して推計した医療費支出の総額は、2013年の実際の医療費支出に対して、GDP比で2%多かった(図2)。以上の分析結果からは、一人当たり医療費をコントロールすることの重要性が示唆される。また、高齢者世代の一人当たり医療費の伸びがより大きいことから、終末期医療も含め、要因について更に分析を行う必要があると考えられる。(文責:松岡裕之)010203040506070809010019891990199119921993199419951996199719981999200020012002200320042005200620072008200920102011201220134.04.55.05.56.06.57.07.58.08.51989199019911992199319941995199619971998199920002001200220032004200520062007200820092010201120122013高齢者:70+高齢者:75+70+to75+[図1]1人あたり医療費支出[図2]医療費支出(万円)(年度)(年度)(%、対GDP比)(現実値、高齢者)(予測値、高齢者)(現実値、その他世代)(予測値、その他世代)(高齢者による寄与)(医療費支出、予測値)(その他世代による寄与)(医療費支出、現実値)高齢者その他世代高齢者その他世代1989年以降の1人あたり医療費の予測ギャップ+人口動態ギャップ/GDP1989年以降、1人あたり医療費伸び率は1人あたりGDP伸び率に等しいと想定日本における医療費支出の予測と実際のギャップに関する考察◆高齢世代とその他世代の両者で、1人あたり医療費の伸び率は、経済成長率よりも高かった。◆ 財務総研の試算によれば、2013年にかけて医療費支出(対GDP比)の現実値は、仮定計算に基づく予測値と比較して2%程度高かったことになる。(注)財務総合政策研究所による試算。図2は1人あたり医療費支出(左グラフ)の伸び率は、1人あたり名目GDP成長率に等しいと想定してギャップを算出している。医療費支出における予測と実際のギャップは、1人あたり医療費だけでなく人口動態変化の予測誤差も反映している。分析・グラフ作成:小池孝英、石川大輔Column310ファイナンス 2017.8

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