ファイナンス 2017年8月号 Vol.53 No.5
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セッション3 人口動態の変化と不確実性の下でのより適切な長期的な財政政策の実施松岡裕之は、人口構造の変化の公的年金・医療の財政への影響について、日本では国民皆保険年金制度が1961年に開始されたが、その後の平均寿命の伸びと比較して支給開始年齢の引上げが十分でなったことを指摘した。当時の高齢化・少子化の予測に基づく年金積立金の推定値と実際の値にかい離があることを説明した。また、基礎年金国庫負担は2013年までに当時予想したであろう水準を2%上回った。経済状況が良好な時は特に不確実性を忘れられやすいため、その影響を楽観視し過ぎないこと、公的年金の財政設計では財政影響が少ないものから着手すること、医療技術進歩と費用の増加を念頭におく必要があることを指摘した。Kang Jia氏は、高齢化する中国では、財政的支出や社会保障年金が負担となりイノベーションや生産性を上げる必要があると指摘した。Myung-Ho Park氏は、韓国政府は債務比率を安定化することが現行制度でも可能であること、一方で老年年金受給者の増加で国民年金が赤字に転落し積立が2060年には枯渇すると指摘した。Quoc Huy氏は、現在のベトナム人口は若いが、2020年頃より高齢化に突入と予測されており、国が豊かになる前に高齢化する問題があると説明。社会保険基金は20年後現行制度継続で枯渇、立ち行かなくなる懸念がある、状況改善には社会保険基金のより良い管理も重要であると指摘した。セッション4 アジアにおける包摂的成長のための財政政策Mohamad Ikhsan氏は、インドネシアでは貧困防護に苦戦しており、歳出も非効率化していると説明。政策面では中央の政治的意思決定、実行能力が弱く計画と実行が一致しない。歳出も細分化し地方分権ですが地方政府の実行力も軒並み弱く、常に現状対応の傾向があると指摘した。Bibek Debroy氏は、過剰な中央集権化国のインドは財政的にも地方分権が課題だと説明。また、移行変動の課程にあり、州により所得や進歩に激しい格差があることを指摘した。Maung Maung Win氏は、財政政策は経済発展と一致することが重要だと説明。経済的活動と成長公平を統合し、インフラコントロールする計画が重要で、市民が努力し国内収入を高め支出の効率化を進め、成長可能な効率性かつ包括性の高い形を取ることが大事だと指摘した。コンプライアンス、体系的メカニズムの能力不足、他国比較で税収対GDP比率が低い点が課題であるとした。Valerie Mercer-Blackman氏は、十分な医療、教育、インフラが整って財政政策や経済は機会への平等促進可能で、これら3点が達成すれば政府の仕事の9割は完了したと言えると説明。医療や教育歳出は包括的成長を支援するが、質が鍵だと指摘した。■司会Chul Ju KimADBI副所長■発表者松岡裕之Kang JiaMyung-Ho ParkQuoc Huy Vu財務総合政策研究所総務研究部長前中国財政科学研究院所長韓国租税財政研究院長期財政予測室長ベトナム社会科学院地域持続的開発研究所部長■討論者上田淳二IMF財政局審議役■司会Sajith Attygalleスリランカ財務省副長官■発表者Bibek DebroyMohamad IkhsanMaung Maung WinValerie Mercer-BlackmanインドAayog国立研究所委員インドネシア大学教授/副大統領上級顧問ミャンマー財務副大臣アジア開発銀行(ADB)シニア・エコノミスト■討論者柏瀬健一郎IMFアジア太平洋地域事務所シニア・エコノミストファイナンス 2017.87PRI×FAD×ADBITokyo Fiscal Forum 2017を開催特集

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