ファイナンス 2017年7月号 Vol.53 No.4
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メリカやイギリス等と貿易を開始した当時、すでに阿片の輸入は禁止されていたが*1、輸入申告書やインボイス等の輸入申告様式の整備が遅れていたため、阿片の取締りは十分に行われていなかったとされている。その後、輸入申告に係る制度の整備に伴い、貨物の実物確認や申告者との口頭でのやりとりだけではなく、申告内容等と照らし合わせた取締りが行えるようになり、阿片の密輸の実態が明るみになったと伝えられているが、我々は「情報なくして摘発なし」というごく単純なしかし重要な教訓を先達の取組から再確認できる。不審貨物情報に着目した取締りこのように、かつては貨物の形状、重量、色合いといった人間の視覚に依存した水際取締りが行われていたが、人間の視覚には自ずと限界があり、情報の質も量も制約を受ける。こうした人間の能力の限界を前提として水際取締りの実効性を高めるため、我が国税関は麻薬探知犬を配備(1979年)し、その後もX線検査装置(1981年)や薬物・爆発物探知装置(1995年)等を導入した*2。これらは犬の嗅覚、貨物へのX線照射、貨物に付着する微細な粒子の採取により、犬の反応や科学技術によって人間の視覚では捉えられない情報を可視化して密輸を摘発する取組である。不審者情報に着目した取締り次に、密輸を企むのは言うまでもなく人であり、モノを取り扱う税関においてもヒトに着目して取締りを行う必要がある。我が国税関は発足当初から海港に監視艇を配備し、技術進歩に伴いより遠隔から不審者の挙動を監視できる埠頭監視カメラ(1996年)や空港監視カメラを配備して、密輸の未然防止に努めてきた(参考4)。そして、2001年の米国同時多発テロを契機として、水際取締りに時間という概念が新たに加わり、税関がより早くより多くの情報を取得し、我が国への到着前に不審貨物や不審者のリスク分析[参考3]不正薬物の密輸摘発状況海上コンテナー内に隠匿〈海上貨物〉平成28年8月、横浜税関は、台湾から到着した海上貨物の検査において、海上コンテナー内のスクラップ内に隠匿していた覚醒剤 約50㎏を発見、摘発した。ヨット内に隠匿〈船舶乗組員〉平成28年5月、沖縄地区税関は、関係機関と連携して、那覇港に入港した外航ヨットに対する許可状に基づく捜索において、船底部及び客室床下に隠匿されていた覚醒剤 約600kgを発見、摘発した。洋上取引〈船舶乗組員〉平成28年2月、門司税関等関係6税関は、関係機関と連携して、東シナ海の海上において船籍不詳の船舶から受け取り鹿児島県徳之島の漁港に陸揚げされた覚醒剤 約100kgを発見、摘発した。虎の置物内に隠匿〈航空貨物〉平成28年1月、東京税関は、メキシコから到着した航空貨物の検査において、虎の置物内に隠匿していた覚醒剤 約25kgを発見、摘発した。ファイナンス 2017.75特集我が国税関における水際取締りの現状と課題

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