ファイナンス 2017年7月号 Vol.53 No.4
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はじめに国家間の相互依存が深まり、モノ、ヒト、カネ、そして情報が国境を行き交う今日、海路や空路を利用して行われる覚醒剤等の不正薬物やテロ関連物資の密輸による危険から、国民生活の安全・安心を守る水際取締りの必要性は益々高まっている。我が国税関は国民生活の安全・安心の実現を使命の一つとし、この不変の使命を達成するため、時代、経済社会、技術革新といった税関を取り巻く環境の変化に対応すべく、船舶や航空機の取締り、海上貨物や航空貨物の検査、訪日旅客の携帯品検査といった水際取締りの手法を進化させてきた。今後、2019年のラグビー・ワールドカップ日本大会や2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されるに当たり、我が国税関を取り巻く最近の環境変化を俯瞰した上で、水際取締りの取組と今後の課題について述べたい。我が国税関を取り巻く環境の変化我が国を訪れる訪日外国人数は、我が国の観光先進国の実現に向けた取組、クルーズ船やプライベートジェット機といった移動手段の多様化、新興国の所得の増加等を背景として、過去5年間で毎年対前年比3割増、クルーズ船の寄港隻数も同様に毎年対前年比4割増の大幅な増加が続いている。また、物流面においても、輸出入許可件数は毎年着実に増加し、小口急送貨物の輸入申告件数はEコマースの拡大を背景として2016年は対前年比3割増となるなど、我が国の国境を行き交うモノ・ヒトの動きは活況を呈している(参考1)。次に、不正薬物の密輸摘発状況に目を転じると、2016年年間の押収量は1,600キログラムを超え、過去10年間で最多である。最近の密輸手口は、海上貨物や洋上取引によって一度に大量の覚醒剤等の不正薬物を密輸する一方、航空機旅客の携帯品や国際郵便物を含む航空貨物による密輸件数が摘発件数全体の9割以上を占める等、密輸[参考1]税関を取り巻く環境変化(十万人)(隻)(十万件)(百万件)(万件)(万件)(出所)日本政府観光局1,036万人836万人1,341万人1,974万人2,404万人0306090120150180210240270訪日外国人旅行者数2012年(H24)2013年(H25)2014年(H26)2015年(H27)2016年(H28)2012年(H24)2013年(H25)2014年(H26)2015年(H27)2016年(H28)2012年(H24)2013年(H25)2014年(H26)2015年(H27)2016年(H28)2012年(H24)2013年(H25)2014年(H26)2015年(H27)2016年(H28)2012年(H24)2013年(H25)2014年(H26)2015年(H27)2016年(H28)2012年(H24)2013年(H25)2014年(H26)2015年(H27)2016年(H28)02004006008001,0001,2001,4001,600外国船社運航のクルーズ船寄港実績1,426万件1,457万件1,528万件1,571万件1,632万件04008001,2001,6002,000輸出許可・承認件数05001,0001,5002,0002,5003,0003,500輸入許可・承認件数11,956万件10,158万件11,272万件10,046万件9,374万件020406080100120140輸入郵便物検査提示個数1,556万件1,590万件1,633万件1,750万件2,259万件04080120160200240輸入申告件数(小口急送貨物)(出所)国土交通省2,302万件2,319万件2,352万件2,442万件2,943万件1,444隻965隻653隻373隻476隻我が国の国境を行き交うモノ・ヒトの動きは拡大している。●訪日外国人旅行者数861万人(2010年)→2,404万人(2016年)【+179.2%】●外国船社運航のクルーズ船寄港実績338隻(2010年)→1,444隻(2016年)【+327.2%】●輸入許可・承認件数1,969万件(2010年)→2,943万件(2016年)【+49.4%】ファイナンス 2017.73特集我が国税関における水際取締りの現状と課題

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