ファイナンス 2017年7月号 Vol.53 No.4
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フトしていませんが、NISAは大変良い取組みであり、さらに多く活用されると思います。しかし、インフレに対する心理面での変化が、必要とされる重要な要素と考えます。2013年以降の金融政策は、基本的に非常に良いものであり、我々はより持続可能なインフレ率上昇の入口にいるのです。いざ貯蓄者の心理にインフレ期待が高まれば、銀行預金から資本市場の商品にシフトすることになるでしょう。これが、何らかの追い風となることを期待します。英語でのワンストップサービスの設立は、良かったです。これを支援すべく、金融庁が英語での素晴らしいホットラインを持っていることも知っています。現在、「国際金融都市・東京のあり方懇談会」では、どのように東京の金融市場をさらに活性化するかについて、全分野における追加的なアイデアを検討しています。東京は多くの非常に重要な強みを持っています。非常に質の高いインフラがあり、広さと厚みのある大きな資本市場があり、国際的に活動する多様な大企業があります。GDP成長率が足元の4四半期連続で潜在成長率を上回っているように、もしマクロ環境が安定的に改善するならば、これらは大変有益なことです。マクロ環境の改善が続くならば、懇談会が検討している事項も、一定程度実施され、さらに有益なものとなるでしょう。資産運用業の発展も重要です。個人的には、租税政策の枠組みの一部に追加的な変更もあり得ると見ています。既に述べた労働のルールは、労働力の柔軟性によって比較的小規模の金融機関にとって支援となるものであり、重要です。金融教育も広い意味で有益です。また、ビジネスを行う際の素晴らしい都市である東京を、より積極的にマーケティングすることも有効です。既に開始した英語でのワンストップ・ビジネス促進センターを拡張していくことは、資源と能力の集中の観点から良いと思います。外向けのマーケティングは、役所や証券業協会が取り組んでいることを積極的に補完し、東京のマーケティングのためにビジネスに注目したアプローチを採るべきです。これらは、あくまで私見です。やがて提言が出される懇談会のアイデアを横取りしたくはないですし、懇談会や東京都の決定が適切か否かを早まって判断したくはありませんから。▶神田: 確かに、東京は治安、食事や娯楽を含めた文化的生活、歴史的厚み、効率的な交通網等のメリットが認識される一方で、例えばシンガポールと比べ、アジアの端という地理的不利や、ビジネス、教育、医療面を含めて英語環境の後進性、国際的人的ネットワークの弱さ、コモンローの不在等が指摘されるところです。社長からご覧になった東京の強みと弱みは何でしょうか。▷キンドレッド: 東京は、深みのある資本市場、十分に活用されていない膨大な貯蓄、多くのグローバルかつ重要な先進的企業を持った大きな経済圏です。これらの要素自身が、金融サービス活動を惹きつけます。率直に言って、香港もシンガポールもこのような強みはありません。経済面でのこうした要素は、質の高い金融サービスの提供のため、東京をいかに位置付けるかという観点において、考慮すべき重要なものです。香港やシンガポールは英語が主要言語です。英語は国際的なビジネスに用いられるため重要であり、東京がさらに重要性を高めるためには、英語は、情報開示、免許付与、登録等で、より多く利用されるべきです。香港やシンガポールの税率は日本と大きく異なりますが、私は、日本も同水準にすべきとまでは思いません。税制面での競争も重要ですが、香港やシンガポールは都市国家であり、日本と違い、支援すべき地方経済圏を抱えていません。また、香港は成長してきましたが、その一定程度は、中国の玄関口であることによると考えます。万が一中国が地政学的・政治的に躓いたとしても、東京にとっては有益となり得ます。これが起きると述べている訳ではありませんが、可能性はゼロではありません。日本社会の法治主義、安全性、強靭性は、高く評価されています。政策が策定される際、これらの要素も考慮されるべきです。日本を魅力的な市場とする中心となる要素に関連づけない形で、取り組むべきではないと考えます。▶神田: 金融庁では、このような劇的な環境変化に適応すべく、金融当局・金融行政運営の変革、国民の安定的な資産形成を実現する資金の流れへの転換、「共通価値の創造」を目指した金融機関のビジネスモデルの転換等を推進しています。中でも、検査・監督のあり方を、形式から実質へ、過去から将来へ、部分から全体へと抜本的に見直しつつあります。最後に、社長の、日本の金融行政改革への評価をお聞かせください。48ファイナンス 2017.7連 載|超有識者場外ヒアリング

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