ファイナンス 2017年7月号 Vol.53 No.4
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った人材をより多く雇用していますが、依然として、経済学、社会科学、一般教養を専攻した人材も雇用します。クリティカル・シンキングのスキルや、顧客と効果的にコミュニケーションする能力は、金融業において今後も一貫して必要となるスキルです。銀行システムの中心は信頼にあります。徐々に機械への信頼が高まってくる一方、コミュニケーションという人的要素は、金融業では中心となり続けると考えます。我々は、適切な人材をバランスよく雇用していますが、科学的・数学的・技術的に高度なスキルへのシフトは確実に進んでおり、金融業の電子化を促します。また、ビッグ・データ、予測分析、人工知能の発展が多くの職業の喪失につながることを考慮することも重要です。ブルーカラー労働者の雇用喪失が、ブレグジットやトランプ大統領の当選に見られた混乱を齎したと思います。人工知能の発展によって、次の数十年間にホワイトカラー職の中間層には多くのプレッシャーがかかることになるでしょう。これらの機能は、個人やスキルがどのように転換していくかという観点から再考される必要があるでしょう。しかし、最終的に社会が注意すべきは、技術の進展によって置き換えられたと感じる人を生まないことです。我々は、人々が幸福で、進化する世界の一部でい続けていると感じさせるような政策を採るべきです。▶神田: 我々は、G20、FSBといった国際金融規制の場で、過度の規制や重複による予期せざる影響が成長を妨げることのないよう、金融規制の複合的効果を包括的に検証すべきと唱導し、私も最初は国際会議で孤立していましたが、今や、国際的合意を得て、FSBの主流業務の一つにまでなりました。また、FATFでも、規制期待の明確化を主唱し、実現してきました。社長はバーゼルIIIを含め、現在の国際金融規制の議論をどうみておられますか。▷キンドレッド: 幾つか懸念があります。2009年G20ピッツバーグサミットにおいて、ハーモナイゼーションのための素晴らしいコミットメントがあり、その後、重要な多くの政策が導入され、金融システムにとって大変良いものでした。しかし、過去数年において、ハーモナイゼーションから離れる幾つかの動きがあり、一定レベルの潜在的な不調和や政策の歪みもあったと思います。金融庁の意見は、大変合理的であり、また、規制の再考につながる影響力を持っており、森長官をはじめとする金融庁の努力を賞賛します。金融庁は「我々はここで一度立ち止まり、全体がどのように調和しているかを見る必要がある」、「システムの安定と成長を促す金融仲介との適切なバランスが図られているか」、「消費者保護と消費者の利益との正しいバランスは何か」、「市場の一体性と市場の活力と透明性との正しいバランスは何か」といった見方を推進されたのです。我々は、全ての新たな規制や潜在的に新たな規制につながる作業がどのように整合するのかを検討すべきです。これらがなされるべき作業であり、更に、全ての主要な国際規制当局は、再調和を図るべきです。何故なら、国際的な機関は、世界の異なる法域におけるイコールフッティングの下で働けるようにする必要があるからです。日本の金融業の可能性▶神田: 社長は昨年11月に創設された東京都の国際金融都市・東京のあり方懇談会のメンバーにもなってご活躍です。東京国際金融センター構想については、金融庁と財務省が2013年11月に始めた金融・資本市場活性化有識者会合の最初の提言で初めて打ち出されましたが、私も財務省側の事務局責任者をしていたので、強い思いがあります。3回の提言では、短期、中期、長期の目標と具体的施策を、①豊富な家計資金と公的年金等が成長マネーに向かう循環の確立(NISA導入、GPIF改革等)、②アジアと共に成長する我が国金融・資本市場(東京市場起債促進、決済システム高度化等)、③企業の競争力の強化、起業の促進(コーポレートガバナンス改革等)、④人材育成、ビジネス環境の整備(金融関連法令等英語化、英語行政窓口設置等)の4分野に整理して提言し、既に少なからずの施策が実現していますが、更に、改革を進めているところです。まずは、これまでの日本の国際金融センターに向けた取組についての評価をお聞かせください。▷キンドレッド: 神田参事官が事務方を纏められた「金融・資本市場活性化有識者会合」の取組みは素晴らしいものです。同会合からは、コーポレートガバナンスコード、NISA、GPIFの資産再配分を含む、重要な提言がありました。これらの政策は、大変良い政策であり、日本にある貯蓄をどのように有効活用するかを考える良い基盤となっています。ご存知のとおり、家計金融資産は預金から大きくシファイナンス 2017.747超有識者場外ヒアリング64連 載|超有識者場外ヒアリング

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