ファイナンス 2017年7月号 Vol.53 No.4
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収益サービスへの他業態の浸食、他方で、私がFATF を担当していても感じますが、テロ・マネロン対策等に必要な規制コストの高まり等、既存の金融機関には難題が山積しています。ビルゲイツが銀行業はなくならなくても銀行は消滅すると予言しましたが、既存金融機関が今のビジネスモデルのままでは生存できないリスクへの対応については、金融庁は真剣に考えていますし、私が参加するG20・G7やFSBでも活発に議論されています。以前、電気通信業や電力業等の業界に予算担当として関係していた時、最前線の収益性の高いセグメントは業態外の新規企業や寡占的国際企業が支配する一方、送電網といった基幹インフラをレガシー資産として維持せざるを得ない伝統的企業は構造的に悩ましい状況におかれます。金融業は、携帯電話により一気に支店網が不要な廉価の高速の決裁システムが最貧国に導入できたように、最も技術革新の影響を受けていると思われますが、社長は伝統的な金融業の将来についてどう考えておられますか。▷キンドレッド: 金融業の未来は、非常にエキサイティングだと考えます。技術進歩は生活の質を向上させるため、ためらうべきではありません。技術革新によって、我々は、より効果的・効率的な方法でサービスを提供することができます。一つの難点としては、新たな技術を生み出す企業家やイノベーターは、新技術の開発に対する十分な報酬を得ますが、こうした報酬の幾らかは、このような革新や進展が社会によって提供されているという適切な認識に基づき、社会全体に還元される必要があります。金融サービス部門の核となる要素は、資本の提供者と利用者との間における資金の流れの仲介です。技術の進展に応じて、我々は、これをはるかに効果的・効率的な方法で行うことができます。銀行サービスの利用者としての一例として、私は携帯電話による銀行サービスを愛用しています。これは、はるかに簡単でシンプルです。以前は、小切手を入手した際、銀行の支店に行って、これを誰かに手渡す必要がありました。現在は、写真を取るだけで取引可能で、口座に振り込まれます。これは単なる一例ですが、素晴らしいものです。しかしながら、技術は、金融サービスを提供する人間の専門性に取って換わることはないと考えます。デジタルツールの進展は、顧客へのサービスの提供に際し、人間の専門性を最適化させる手助けをします。さらに、現在のコンピューターの進展は天文学的なペースで進んでおり、膨大な量のデジタルデータへより直接的かつ便利にアクセスできることで、顧客に対するより良い金融サービスの提供が可能となります。また、必ずしも従来型の支店を多く持つ必要がなくなるため、コストを軽減します。電子的なやりとりを通じてビジネスが可能となるため、コストの低下につながります。もし、ビジネスの組織的な部分を見るならば、全プロセスにおける新技術の採用により、従来よりも、はるかに効率的なインフラを齎します。このため、我々のビジネス構造が持つ旧態設備からどのように脱却していくか、将来的にどのような姿になっていくのか、という大きな課題があり、これは今まさに起こっていることです。しばしば、「FinTechが全てを行うようになるので、金融業は無くなる」と言う方もいます。しかし、これは重要なポイントを見落としており、デジタルツールは、単に、金融業の専門性や実務者による顧客へのサービスのあり方を最適化するものです。要するに、金融業は無くなりません。例えば、小売業のアマゾンの場合、人々は店舗に行って何かをすることはなく、リビングルームに座って、欲しいものにクリックを数回することで、世界中のあらゆる場所における欲しい商品を買えるようになり、翌日には、商品が家まで届くようになりました。これは驚くべきことです。これにより、小売店で働く人は少なくなりますが、倉庫において配送のために働く労働者は増えます。ネット売買に関連する電子購入プラットフォームの物流を支援するために、広告関連で働く人も増えます。▶神田: おっしゃるとおり、金融機関の形態や主体は変わっても金融業は必要とされ続けると思われます。その時にカギになるのは人材と考えます。ゴールドマン・サックスのニューヨーク本社に600人いた株式トレーダーが2人だけになり、社員の三分の一がコンピューター・エンジニアとなりましたし、“The future of computerization”(Frey&Osborne)ではクレジット・アナリストから融資担当まで金融関係の仕事の多くが消滅対象となると予言しています。社長は人材育成にも注力してきたと伺っていますが、将来、金融業はどういうスキルをもつ人材によって担われていくとみて、そのために、どのような布石を打っておられますか。▷キンドレッド: 我々が雇用する人材やそのスキルにも一定の変革が起こっていますが、本質的なものではありません。我々は、技術的・科学的なスキルを持46ファイナンス 2017.7連 載|超有識者場外ヒアリング

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