ファイナンス 2017年7月号 Vol.53 No.4
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す。次の段階として、高齢者の労働参加率の上昇は良いことです。また、我々が特に注目しているのは、外国人労働者です。その非常に良好な進展として、現在、日本に約110万人の外国人労働者がいます。2016年には17.6万人の新規参加がありました。これらは非常に良い実績です。他方、移民に対して強い社会的な懸念があるという問題があります。統計を見ると、政府は、外国人労働者に対して、かなり効果的に許容可能な対策を維持しています。このため、これを注意深く見つつ、管理していく必要があります。神田参事官は、「注意深い楽観主義」という言葉を使われました。私は、人類の状況についてはもっと楽観的ですが、日本のポリシーミックスは正しいと考えているため、日本の状況にも「注意深く楽観的」です。そして、生産性の更なる進展が極めて重要であるため、特に三本の矢のうちの構造改革に更に注力することが重要と考えます。これは、次の5~10年の課題と考えます。しかし、その先には、日本が世界の中でどのような規模・位置を占めるかという観点での大きな課題もあるでしょう。たとえ人口が1億人前後で安定したとしても、人口1億2500万人とは大きく異なるので、人口問題に戦略的に対応する必要があると考えます。ポリシーミックスは、今出来得ることに焦点を当てていますが、人口が1億人となる状況において、過去30年の貢献度との比較において、世界への経済的な貢献の水準を考える必要があります。▶神田: 構造改革に適切に御言及頂きましたが、市場、特に海外投資家が注目する構造改革では、コーポレートガバナンスは一定の評価を頂いているようです。私はその国際標準を律するOECDの企業統治委員会議長も務めていますが、日本の努力への関心は高いところです。他方、雇用や医療、農業等における不十分な構造改革が生産性を劣化させ続け、また、財政改革の遅れが2025年問題等、大きなリスクを齎しているという批判も強いところです。社長は、以前、アベノミクスについて、TPP交渉参加や消費税増税等を高く評価しつつ、労働市場や医薬品規制等の構造改革で前進が必要という分析をされていました。ご指摘の通りで、私も海外投資家から、雇用法制の柔軟化への期待をよく伺います。日本の現在の構造改革について、評価する点と改善すべき点についてご教示ください。▷キンドレッド: これまでの実績に関しては、大変ポジティブと考えます。最初に強調したいのは、コーポレートガバナンスの分野です。政府はスチュワードシップコードやコーポレートガバナンスコードといった刺激策をもって取り組んでおり、それにより企業部門の生産性の向上に繋がっています。農業分野も注目すべきでしょう。独占力を持つ協同的なシステムの解体は非常に意義があります。これは、農業分野にとって良いことです。日本には素晴らしい農産品があり、成長する輸出産業になり得ます。農業はGDP全体に占める割合は比較的小さいものの、利益構造の変化の観点から興味深い改革です。他に強調したい分野は、課税政策です。法人税の税率はかなり大幅に低下してきており、企業に対してより魅力的な環境を齎す素晴らしい動きです。外国人労働者を伸ばす政策は、大変良いと思います。選挙制度の改革はそれほど上手く進んでいない分野だと思います。議会構造における違憲性の問題が未だにあり、これにどのように対処していくのかが重要です。もっとも、これが微妙な問題であることは理解しています。労働市場改革ではより柔軟な仕組みを構築すべきです。解雇のための経済的・金銭的な補償に関する検討があります。これは「契約解除のための合法的な枠組み」とも言えますが、労働力の柔軟性を促すことから、日本の経済成長の進展を促すことになるでしょう。雇用の観点からも有意義な枠組みですが、「労働者を解雇したいからだ」としばしば言われることも知っています。しかし、実際、循環的な産業や環境において企業を経営する場合、環境の循環に応じて、労働力の規模を調整できる必要があるのです。もしダウンサイジングにより柔軟性を持つことができれば、アップサイジングに対してもより積極性を持つことになるでしょう。この政策が導入されれば、労働力全体の需要を押し上げると考えます。この政策は、長い目で見て、雇用に関する柔軟性を持ち、階層的な労働力において一定の非効率を甘受することから脱し、総雇用を増やし、より高い成長率につながります。金融の業としての将来▶神田: 人口減少や少子高齢化による市場縮小、低成長の常態化による低金利とイールドカーブのフラット化による低収益、フィンテックによる競争強化や高ファイナンス 2017.745超有識者場外ヒアリング64連 載|超有識者場外ヒアリング

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