ファイナンス 2017年7月号 Vol.53 No.4
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る必要があります。個人的には、例えば、最低所得保障も、検討すべきと考えます。その理由は、世界がとても豊かになり、利便性でも大きく進展し、他方で、我々が費消する資源の再利用がそれほど効率的ではなく、また、再利用の受益者がそれを公平でないと感じているのは、最近の出来事からも明らかだからです。非効率なだけでなく、受益者は概して、不公平であると感じています。世界がより良く発展し、本質的に豊かになり、世界の全ての人々が、満足した生活を得るための基本的な所得を超えるような政府の再配分に頼ることなく、基本的な水準の所得を得る権利を持つべきであると、我々は認識すべきです。これは、幾つかの国で検討されているものの、まだ採用はされていません。これは、政府から得られる権利の構造を変更し、幾つかの既得権が失われるため、とても急進的なアプローチであり、大きな挑戦となるでしょう。▶神田: キンドレッド社長の深い洞察あるご見解を、注意深い楽観主義と認識しました。最低所得補償論は問題があると思いますが、技術革新やグローバリズムを守るためにも、裨益できていない階層に貢献の機会と果実がシェアされる工夫が必要だということには同感します。さて、こういった変容は、金融にとっても大きな影響があり、マーケットの最大のリスクが政治的不透明性とも位置づけられています。他方、金融業はこの問題と解決の一部ともいえ、米大統領選でも議論の焦点の一つでした。ウォール街の貪欲な文化やサイバーセキュリティ等は重要なテーマですし、他方、G20・G7でもフィンテックによる金融包摂の期待が謳われています。金融業の功罪、つまり、社会の持続的成長に貢献する可能性、或は、社会を悪化させるリスクについてどうみておられますか。▷キンドレッド: 十分に機能する金融システムを持つことは、金融の安定と経済成長の両者に必要不可欠です。金融システムは、十分に機能し、技術革新を促進し、消費者の満足やサービスの向上に効率的な方法で活用されうる必要があります。また、あらゆる活動にありうる行き過ぎの可能性を認識する方法で規制される必要があります。10年前の金融危機は、行き過ぎが金融セクターのコントロールを無効にしたと見ています。これに対する規制を通じた多くの対応は有効なものでした。ただ、行き過ぎに対し、しばしば、行き過ぎた反応になりがちです。世界は、資本の提供者と利用者を効率的な方法で仲介する必要があると信じています。何故なら、世界は国際的に相互連関しており、顧客が要求する国際性を認識した枠組みのもとで、金融機関が国際的に機能する必要があるためです。そこで、安定と成長という目的のバランスを採る必要性を認識した国際規制の調和が重要です。金融セクターはより良い消費者満足や顧客サービスを提供し、資本が効率的な恩恵と経済全体の成長のために用いられることを確保するよう、今日急速に進展しているデジタルツールを採用していくでしょう。日本のリスクと期待▶神田: 社長は長く日本にお住まいになり、その状況を注視してこられました。激化するグローバル競争と不安定化する国際政治という環境の中、自ら、人口減少と少子高齢化や未曾有の財政赤字を背負う日本は、既に潜在成長率がほぼゼロの状況が続き、苦難も予想されます。他方、科学技術や文化芸術、治安等では最高水準を維持しています。日本の強みと弱み、また、将来のリスクと可能性の双方について、どうお考えですか。▷キンドレッド: 日本は、現在、素晴らしい社会をもっています。法治主義、教育の質、インフラの質、科学の進展、建設基準など、非常に多くの素晴らしい点があり、これらは、日本のこれまでの真の民主主義の成果です。ご存知のとおり、日本が直面する重要な問題は、人口動態にあります。長期的な成長力は、労働供給量と全要素生産性の数学的な関数です。そこで、もし労働供給量が予想される人口構成の変化に合わせて減少すると、これまでと同水準の経済生産を維持しようとする場合、日本は、全要素生産性において極めて大きな進展が必要となります。これらは、非常に注意深く評価される必要があります。私は、アベノミクスのポリシーミックスを賞賛します。「三本の矢」は、補完的で一貫した方法で用いられれば、とても強力です。しかし、三本の矢の積極的な活用をもってしても、人口動態が非常に厳しいため、困難を乗り越えるのは依然として難しいと考えます。アベノミクスの女性参加政策の下で、労働力の参加には変化が見られており、政策は明らかに成功していま44ファイナンス 2017.7連 載|超有識者場外ヒアリング

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