ファイナンス 2017年7月号 Vol.53 No.4
31/56

ル化やデジタル化の潮流に抗わず、背を向けることなく、その潜在的プラスを果敢に成長要素に取り込もう、と呼びかける。日本の政策議論への活用これを聴けば、誰もが、久々に帰省した故郷の駅前のシャッター商店街や、逆に、同窓会の度に名刺の横文字が増え、何となく羽振りは良くなったが海外出張で疲れ切った旧友の顔を思い浮かべるに違いない。他人事ではないのだ。事実、OECDでの昨今の議論は、経済連携を通じた構造改革と経済成長、「一億総活躍」社会、生産性向上や「働き方改革」、「地方創生」などの日本の政策課題と見事なまでの相似形を成している。「我が国には、採用に馴染まないような固有事情が種々ありまして…」とこれらの分析や提言を忌避するのは簡単であるが、それではもったいない。どの国も直接適用できないのは当然であり、重要なのは、即席で飛びつける結論としての分析や提言ではなく、公共政策の最先端で磨かれている方法論や物の考え方を理解し、応用力を磨くことである。7月をパリの焼却業者の稼ぎ時とさせないよう、これらの成果を日本国内の政策議論に大いに役立てたい。OECDのアプローチの特徴前編の終わりに、この項のモットー、「良い生活」に資する「良い政策」を作っていくためのOECDのアプローチの最近の特徴として、3点挙げたい。一つ目は、公共政策の間口を広くとった上で、そこに登場する主体や対象を徹底的に因数分解する手法だ。けだし、個人は、労働者や消費者など多面的機能を果たしている上に、性別や年齢も様々だ。企業も、シリコンバレーの一匹狼から北京の国有企業まで千差万別。経済構造や生活水準などに着目すれば、チリと米国の違いよりも、ピッツバーグとウォール・ストリートという国内における地域格差の方が大きいかもしれない。また、教育、と一口に言っても、人生の成長段階に応じて基礎学力、高等教育、専門技能訓練など多様な要素を含む。因数分解の手法の根底には、分析対象を「分けて」初めて物事が「分かる」のであり、有意な議論が成り立つ、との確信がある。ちなみに、常設の理事会を構成する加盟国の代表部大使は、それぞれに立派な見識の持ち主であるが、年齢(最年長はギリシャの80歳、最年少は英の42歳)、性別(女性8名。同性のパートナーを社交行事に同伴する大使も)及び経歴(職業外交官、経済テクノクラート、学者、会社経営者など)ともに実に多様で、政策議論に広がりと厚みを加えている。二つ目は、大組織の宿唖とも言える蛸壺化を防ぐための「統合」のベクトルである。これは、因数分解とは一見逆のようだが、両者相俟って、まったくもって自己完結的な作用なのである。すなわち、デジタル化などの比較的新しい政策課題は、各々が垂直に掘り下げるだけでは不十分であるのみならず、1600人の専門家の「集団視野狭窄」が生じれば、世の中に対して有害ですらあろう。そこで、ひとつの主管部局が複数の同輩部局を統括し、「生産性革命」、移民やジェンダー、高齢化などのテーマについて分野横断的に取組を進めている。特徴の三つ目は、「この一枚」の段でも垣間見たように、分析手法の絶え間ない自己刷新である。OECD内の研究者は皆、多かれ少なかれ「統計技術者」だ。英語では、スタティスティシャン(statistician)と呼び、筆者はいつも舌を噛んで笑われる。「より良い政策」の前に「より良い統計」が必須と信じ、日頃のモヤモヤ感を可視化し、逆に、固定観念を揺さぶるための新たな分析手法を昼夜追求して已まない人々である。こうした研鑽の成果は、前述のTiVAデータベースや「サービス貿易制限指標(STRI)」といったOECD印のヒット商品を生み出した。それに基づく経済活動の「レントゲン写真」は、各国政府のみならず、G7、G20やAPEC等における政策協調に不可欠な根拠を与え、重宝がられている。(以下、次号に続く)筆者略歴安部 憲明平成9年(1997年)外務省入省。在米国大使館、日米安全保障条約課、北東アジア課、国連政策課、在中国大使館等を経て、現在OECD日本政府代表部で勤務。ファイナンス 2017.7272017年閣僚理事会の概要と意義(前編) 〈戦略的岐路に立つOECD、グローバリズムの苦悩と挑戦〉SPOT

元のページ  ../index.html#31

このブックを見る