ファイナンス 2017年7月号 Vol.53 No.4
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国民の不信を深めるだけだ。より多くの人が恩恵に浴し、弊害を最小化するためには、過度の「格差」を是正ないし緩和するための適切な政策が不可欠だ。以下、現状分析として、②グローバル化により、市場規模が拡大する反面、低賃金の移民の流入、事業の海外移転や外国企業との不公平な競争などのために、多くの人々にとり実際の取り分は小さくなり、失業の可能性も高まっている。法人税、労働・環境基準の引き下げ競争、実体経済と金融の分離が、一握りの富裕層への富の集中を招くなど国民階層を分断している。③貿易については、その便益は拡散されて分かりにくい上に、調整に時間がかかる。一方、その損失は明確で、特定の個人、企業及び地域を直撃しがちだ。④中産階級の収入低迷と失業は、貿易よりも技術革新が主な要因と考えられるが、グローバル化とデジタル化が相俟って賃金と生産性の格差を広げていることは確か。取り残された人々は、急激な技術進歩に伴う経済の変化に適応する技能と手段を持ち合わせておらず、特に、平均的なスキルを持つ中産階級向けの雇用の空洞化が生じている。⑤金融のグローバル化は、金融危機の被害を各国各層に一気に広げた。⑥政府の規制や監視が及ばない領域で競争条件が不公平になり、例えば、多国籍企業の脱税や租税回避を許している。⑦エリート層は、グローバル化を擁護し欠点を軽視する傾向があり、貿易交渉の不透明さや利益への疑義を生じさせ、民主的議論や説明責任が不足しているとの政治不信を招いている。その上で、政策提言として、⑧打撃を受けた人の保護(セイフティ・ネット)の拡充や税制や年金・社会保障を通じた所得再分配、⑨生産性の向上を根幹に据えた成長戦略、すなわち、デジタル化といった外的要因を生産性要素に内在化させるための「攻め」の政策、例えば、業態の動向や技術革新を見越した教育や技能訓練(エンパワー)、老若男女が包摂的かつ柔軟に参画できる労働市場の整備、企業の参入退出の活性化、中小企業のグローバル・バリュー・チェーンへの参画、⑩構造改革や財政政策の国際協調、競争条件均等化のための競争政策やコーポレート・ガバナンス、環境保全、腐敗防止などの分野における実効的なルールの設定、などが必要である、と説く。グローバ製造業の雇用の変化を説明する要素1990年~2008年の全雇用に占める年平均ポイントの変化Change in manufacturing employment shareChange in commercial services employment shareOther factorsTechnology and consumer preferencesImports for nal consumption(trade)Imports of intermediates(trade)出典:OECD「2017年6月エコノミック・アウトルック〈Better, but not good enough〉」-0.75-0.50-0.250.000.250.500.751.001.25-0.75-0.50-0.250.000.250.500.751.001.25%ItalyJapanAustraliaUnited StatesFranceUnited KingdomCanada26ファイナンス 2017.7SPOT

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