ファイナンス 2017年7月号 Vol.53 No.4
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支援を実施し、IDA19以降段階的に融資規模を縮減させることを提案した。しかし、米国や英国は、IDAからの卒業後は中所得国を支援対象とするIBRDから支援するのが原則であると主張し、3カ国への卒業移行国支援に対し厳しい姿勢を示した。これを受け、世銀事務局は移行支援をIDA18限りとした上で、融資規模をIDA17の2/3、金利をIBRDと同水準とする妥協案を示したが、米英の姿勢は厳しいままであった。これに対し、日本は、国際的な低金利環境の中でIBRDの資金繰りは厳しい状況にあるため、IDAから卒業後にIBRDから十分な支援を受けることが必ずしも保証されないことから、卒業国がscal cliに直面しないよう円滑に卒業移行を図ることが必要として、IDAによる3カ国への卒業移行国支援を積極的に支持した。そのため、日本は、世銀事務局とともに、様々な機会を通じて米英を含む先進各国に対し、卒業移行国支援の必要性について粘り強く説得を続けた。その結果、最終的には米英ともに妥協を示し、3カ国に対する卒業移行国支援が認められることとなった。このように、日本はアジアを代表する主要ドナー国として、ベトナムやスリランカを含む卒業国に対する移行支援を積極的に支持することで、アジアの国々の意見を代弁する役割を果たした。欧米諸国がアフリカ支援を重視しがちな中、日本がアジア支援を積極的に行うことで、バランスをとる役割を果たしたとも言える。実際に、日本はベトナム、スリランカ両国のハイレベルから卒業移行国支援への支持について要請を受けていた経緯もあり、今回の交渉結果を受けて日本は両国から大変に感謝された。4日本の拠出金額・シェア増資交渉会合の最大の目的は、増資総額を確定し、各国の割当額を合意することである。IDA増資はIMFの増資や国連拠出金とは異なり、世界経済に占める経済規模等を踏まえて一定の方程式に基づいた割当がなされる訳ではなく、各国が自国の財政状況や開発政策を踏まえて任意に拠出金額を定める。日本は、今回の増資について、日本の重視する自然災害やパンデミックへの予防・備え・対応の強化をIDAの重点政策に位置付けたことや、増大する開発ニーズに応えるために新たに市場からの資金調達を導入したことを評価した上で、厳しい財政状況に配慮し、出資貢献を前回増資より抑制した約3,088億円としつつ、前回増資で導入された融資貢献(円借款)の活用(約2,924億円)により、IDAの業務量拡大へ貢献することとした(資料2参照)*2。これにより、貢献シェアは前回の10.0%から10.3%に増加させることとした。貢献シェアの順位については、前回同様、英国、米国に次ぐ第3位となった。なお、出資と融資を単純に合計した資金量ベースでは、英国を抑えて、前回同様第1位である。5最後に上記のようにIDA18増資交渉では様々な論点について議論がなされたが、IDAによる新たな市場調達の導入、IDA18における重点政策の設定、卒業移行国支援のあり方等の主要論点について、日本は常に議論をリードし、主要ドナーとしての責任を果たしたと言える。これらIDA18増資交渉で議論し合意されたことが、IDA18期間において着実に実施されることを今後評価し、次回増資すなわちIDA19の議論へつなげていくことが今後我々に求められる作業となる。本稿が次回IDA増資のみならず、今後の我が国の開発政策の策定、各国際開発金融機関(MDBs)の増資での方針策定の一助となることを期待する。*2IDAへの資金拠出のうち、融資による貢献分を除いた第18次増資に係る出資分(約3,088億円)と、これに加え重債務貧困国に対する債務救済費用の我が国負担分(約371億円)の総額約3,459億円の払込みを行うため、国会において「国際開発協会への加盟に伴う措置に関する法律の一部を改正する法律案」の審議が行われ、本年4月6日に衆議院、14日に参議院において全会一致で可決され、成立した。22ファイナンス 2017.7SPOT

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