ファイナンス 2017年7月号 Vol.53 No.4
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れる。なお、所得水準が一定水準に達し、IBRDからも一部借入が可能な国(ブレンド国)に対しては、条件をやや厳格化した融資が行われる。3増資交渉の主要論点IDAは開発のための幅広い取組みを支援しているため、IDA18増資交渉の論点は非常に多岐に亘る。それらの全てをここで紹介することは限られた紙幅の中では不可能であるため、ここでは公式会合において議論された主要な論点の一部を紹介したい。3.1 市場調達の導入2015年に採択された国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて、開発機関に求められる開発資金の量が飛躍的に増加しており、IDAは率先してこれに対応することが求められている。他方で、多くの先進ドナー国は厳しい財政状況に直面しており、出資による貢献額の大幅な増加は見込めない。こうした状況を背景に、前回のIDA17では、出資による貢献に加えて新たに融資による貢献が認められることとなった。今回の増資では、この融資貢献に加えて、さらに資金量を大幅に増加させるために、IDA自らが債券を発行して市場から資金を調達するという革新的な手法を採用することとなった。この結果、IDA18の資金量はIDA17と比べて約4割増加させることとなった。これまで、IDA資金は先進ドナー国からの貢献を基本としていたが、加えて市場から資金を調達することでIDAはその資金調達のあり方を大きく進化させることとなった。この新たな資金調達手法は、ドナー国の財政状況が厳しい中、増大する開発ニーズに応えるものとして、ドナー国及び途上国から大きく歓迎された。ただし、交渉会議の当初の段階から債券発行による市場調達が決まっていた訳ではない。世銀事務局は、資金量を増加させる手法として、債券発行による案だけでなく、IDAの資産を段階的にIBRDへ移転してIBRDが債券発行する案や、IBRDがIDA支援国へ行う融資をIDAが保証するといった案も提案していた。これに対し、日本は、IDAによる債券発行以外の案は世銀のガバナンス上の課題等から現実的な解決策とはならないと主張し、最終的な債券発行案への決着に向けて、日本が積極的に議論をリードしていった。なお、昨年9月にIDAは格付会社のMoody’s社及びStandard & Poor’s社からトリプルA格付けを取得しており、本年7月を予定している初の債券発行へ向けて、手続きが進められているところである。3.2 IDA18における重点政策の設定3年毎の各IDA増資交渉では、IDAがいかなる分野を重点的に支援するかを議論し、決定することが重要である。各国ともに増資の意義を国内関係者へ理解してもらうためにも、自国の開発政策に重点を合わせるように主張を展開し交渉が行われる。IDA18においても、どのような分野を重点政策とするかについて活発な議論が行われた。欧米の主要ドナーは、ジェンダーや紛争脆弱国への支援などといった分野の重要性を主張した。こうした中、日本はその重視する開発分野として、自然災害やパンデミックへの予防・備え・対応の重要性について主張を展開した。大規模な自然災害が一度発生すれば、人命が脅かされ、それまでの発展のための努力や成果も一瞬にして奪われてしまう。そのため、途上国における防災を開発政策の重要課題として位置付け、自然災害への事前の予防や備えを踏まえた開発計画を適切に実施することは極めて重要な開発課題である。なお、日本は、2014年より「日本=世銀防災共同プログラム」として防災分野での世銀との協力を進めており、日本の資金拠出により「世銀東京防災ハブ」を設立した。世銀東京防災ハブでは、日本がこれまで蓄積してきた地震や津波をはじめとする自然災害への予防・備え・対応の経験を途上国へ役立てるべく、途上国の政府職員等を招いた防災に関するセミナー等を実施するとともに、世界48カ国において防災に関する技術支援を展開している。また、パンデミックについても、それに対応する体制強化と、危機への備えにも資するUHC(ユ20ファイナンス 2017.7SPOT

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