ファイナンス 2017年7月号 Vol.53 No.4
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(注)本稿において意見の表明に当たる部分は、筆者個人の見解であり、財務省、日本政府の意見を代表するものではない。また、英語で記された原文の日本語訳は筆者によるものであり、公式の翻訳ではない。1はじめに2016年3月から12月にかけて国際開発協会(IDA(アイダ):International Development Association)の第18次増資交渉が行われた。IDAは、世界銀行グループ(資料1参照)の中で、所得水準の特に低い開発途上国に対して超長期・低利の融資や贈与、技術支援を行い、当該国の経済開発や貧困削減を支援する国際開発金融機関であり、3年に一度、必要資金の補充のため増資を行っている。この3年に一度の増資交渉は、途上国の開発に携わる政府関係者の最大のイベントの一つである。世銀事務局が用意する膨大な政策ペーパーを基に、1年近くに亘ってドナー国代表者*1間で開発政策が討議され、今後3年間の援助方針が国際社会に共有される。IDAは、その支援規模や国際的影響力が大きく、各国の代表者が途上国開発政策の様々な論点について国際的な合意形成を行う増資交渉の意義は極めて高い。IDA第18次増資交渉は、2016年3月のパリに於ける第1回交渉会合を皮切りに、ネピドー(ミャンマー)、ワシントンDCでの交渉会合、その他大小様々な非公式会合等を経て、2016年12月15日にジョグジャカルタ(インドネシア)での最終会合で合意に達した。日本を含む多くのドナー国は厳しい財政状況に直面し、援助資金の負担能力には限界がある中、後述する市場からの資金調達を新たに導入することにより、最終的には過去最大となる750億ドル(うち、ドナーからの拠出は271億ドル)の資金規模を達成した。これは前回のIDA17から約4割の増加を果たしたものである。我が国は、IDAの主要ドナー国として、資金面での貢献だけではなく、主要議題であった資金の市場調達による革新的な資金モデルの導入や、ベトナムなどの一定の所得水準に達したIDA卒業国に対する卒業移行国支援の実施等、政策面においても終始議論をリードした。また、日本の重視する自然災害やパンデミックへの予防・備え・対応の強化がIDAの重点政策に位置付けられた。我が国は、これらの点を評価し、厳しい財政状況を踏まえ、出資貢献を前回増資より抑制した約3,088億円としつつ、前回増資で導入された融資貢献(円借款)の活用(約2,924億円)により、IDAの業務量拡大へ貢献することとした。これにより、貢献シェアを前回の10.0%から10.3%に増加させることとした。貢献シェアの順位については、前回同様第3位となった。本稿では、IDAの仕組み、増資交渉における主要論点、日本の貢献状況についてまとめている。本稿が次回IDA増資のみならず、今後の我が国の開発政策の策定、各国際開発金融機関(MDBs)の増資での方針策定の一助となることを期待する。国際開発協会(IDA) 第18次増資について国際局 開発機関課 課長補佐  山下 直樹Spot03*1総務(日本は財務大臣)の副官(「IDA-Deputy」と呼ばれる)が増資交渉を行う慣例となっている。日本は岡村健司大臣官房審議官(国際局担当)がIDA-Deputyとして交渉を担当。18ファイナンス 2017.7SPOT

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