ファイナンス 2017年7月号 Vol.53 No.4
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(図 「『経済・財政再生計画』の着実な実施に向けた建議」(概要))平成29年5月25日財政制度等審議会Ⅰ.総論1.財政健全化の意義・財政健全化は、将来世代に対する我々の責務。プライマリーバランス(PB)の赤字は、今を生きる我々が、過去の債務の償還・利払いに加え、自らの直接的な受益に見合う負担を負わず、将来世代にこれらの負担を押し付けていることを意味する。2020年度の「PB黒字化」は、将来世代に対する最低限の責務であり、その実現の旗を降ろすことは許されない。2.財政健全化の重要性・メリット・財政健全化は、国家及び経済の信認を維持するための重要な指針。また、財政健全化は責務であると同時に、以下のメリットがあるもの。(1)将来不安の解消による経済の安定化・財政や社会保障の持続可能性への不安が残る中、景気を刺激するような財政拡張を行っても、将来的な財政破綻のリスクが増大し、不安の更なる高まりにつながるだけ。歳出・歳入両面での財政健全化は、予見可能な形で給付の削減や負担の増加を行うことで、国民が安心して消費でき、企業も投資を行うことができる環境を整備する。・経済成長を実現し税収を引き上げることも大事なことである。これとともに、財政健全化を通じて将来不安を払拭し、経済成長へとつなげていくプロセスも同様に重要。(2)リスクの軽減・他の主要先進国よりも高い債務残高対GDP比を抱える我が国は、経済的・社会的なショックに対して脆弱な構造。国際的な信認を維持する観点からも、主要先進国に後れをとることなく、リスクに頑健な財政構造を実現するべき。・足下の国債金利は極めて低く推移しているが、デフレから脱却できれば、金利が名目経済成長率を上回ると考えるべき。金利が経済成長率をいつまでも下回ることを前提として、PBの改善をないがしろにした財政運営を行うことは、安定的なマクロ経済運営とは言えない。3.財政運営の考え方・政府は、一般歳出及び社会保障関係費の伸びの「目安」を2年連続で達成。2020年度の「PB黒字化」に向けて、平成30年度予算編成でも、この「目安」に沿った歳出改革を続けるべき。また、2018年度の中間評価時に追加の歳出・歳入措置を検討するべき。・「改革工程表」に定められたすべての改革項目を確実に実行すべき。Ⅱ.主要分野において取り組むべき事項1.社会保障・社会保障関係費の増加が見込まれる中、「改革工程表」に掲げられている検討項目等をすべて着実に実行することなどにより、効率化・適正化に不断に取り組み、経済・財政再生計画の「目安」を達成するだけでなく、更に伸びを抑制する必要。・医療・介護:診療報酬・介護報酬同時改定について、国民負担の抑制といった観点も踏まえ取り組んでいく必要。薬価制度の抜本改革について、国民負担の軽減につながるような改革の実行が必要。都道府県に実効的な手段・権限を付与するとともに、取組の結果に応じた強力なインセンティブを設けることで、医療保険・医療提供体制を通じたガバナンス体制を構築する必要。・障害福祉:「ニッポン一億総活躍プラン」に沿い、支援の在り方を改善していく必要。・生活保護:生活扶助基準の検証結果を適切に基準に反映するとともに、医療扶助の適正化や就労促進などに取り組むべき。・子供・子育て:女性の活躍促進の観点からも、社会全体で子育てを支援する必要。このうち、保育の受け皿確保について、安定財源を確保しつつ取り組んでいくため、引き続き企業主導型保育事業の活用を図るとともに、幼稚園における預かり保育の推進、児童手当の所得制限の在り方や特例給付の廃止を含めた見直しなど、あらゆる方策を検討する必要。2.文教・在学者一人当たり教育支出はOECD諸国の平均以上。厳しい財政事情を加味すると、教育の「質」を高め、優先順位をつける必要。・高等教育の費用負担は自己投資的な側面が強く、低い租税負担率という環境の下では、自己資金を中心として賄われることとなる。国際的にみて高い水準の進学率を踏まえれば、低所得世帯など、家計の状況を踏まえた政策効果の高い支援方策を検討する必要。・45%の私立大学が定員割れしており、進学する魅力に乏しい大学が存在する可能性。今後18歳人口の減少に伴い数年以内に入学総定員割れが見込まれ、大学の再編や教育力向上等の大学改革が急務。地域ぐるみで大学の再編・育成を行う仕掛け作り、アウトカム指標を通じた私学助成をはじめとする補助金の傾斜配分の強化が必要。・教育支出の財源は、まずは無駄な歳出削減で捻出し、それを超えた社会要請には様々な税制を中心とした恒久的財源を検討する必要。財源を国債に求める考えは、将来世代への負担のつけ回しであり、PB黒字化目標・社会保障改革との関係でも受け入れられない。3.社会資本整備・社会資本の整備水準の向上に伴う投資効率の低下や人手不足による労働市場の供給制約の高まりを踏まえると、今後の社会資本整備にあたっては重点化・効率化を徹底し、公共事業の「量」の拡大ではなく、「質」の改善を相当に図っていく必要。・このため、事業評価の厳格化、受益者負担の原則の徹底と民間活用の推進、既存ストックを最大限活用した最適な交通ネットワークの構築、社会資本整備の透明性の向上により、生産性向上に向け、中長期的に公共事業の構造を改革していくことが重要。4.地方財政・地方歳出の見直しに向け、地方財政計画と地方決算との間でPDCA実施に取り組むとともに、徹底した「見える化」を推進する必要。・地方の基金残高総額は21兆円(27年度決算)の規模。10年前から7.9兆円増加(毎年平均8,000億円増加)。各団体の基金の内容・残高の増加要因等を分析・検証し、地方財政計画へ適切に反映すべき。・地方財政計画の「枠計上経費」等の必要性・適正性を検証する必要。例えば、まち・ひと・しごと創生事業費等は特定の政策目的を有しており、地方団体の支出状況を分析・検証して、地方財政計画への反映について工夫する必要。・地方団体間比較を通じた行政経費の抑制・業務改革を推進していく必要。トップランナー方式の対象業務を拡大するとともに、同方式による効率化額の一部を赤字地方債等の縮減に充てられるよう、地方財政計画への反映を工夫する必要。ファイナンス 2017.717財政制度等審議会「『経済・財政再生計画』の着実な実施に向けた建議」について SPOT

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