ファイナンス 2017年7月号 Vol.53 No.4
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更なる高まりにつながるだけである。むしろ、予見可能な形で歳出・歳入両面から財政健全化を行うことで、国民が安心して消費でき、企業も投資を行うことができる環境を整備し、経済成長につながっていくことが期待される。大事なことは、「経済成長か財政健全化か」という二項対立ではない。経済成長を実現し、税収を引き上げていくことはもちろん大事なことである。これとともに、財政健全化を通じて将来不安を払拭し、経済成長へとつなげていくプロセスも同様に重要である。財政や社会保障の持続可能性に対する国民の不安を解消するためにも、経済成長と両立する形で、社会保障改革を含めた財政健全化の取組を進める必要がある。第2に、リスクの軽減である。他の主要先進国よりも高い債務残高対GDP比を抱える我が国は、経済的・社会的なショックに対して脆弱な構造であることを認識すべきである。例えば、震災等の巨大災害や昨今の国際情勢に係るリスクが顕在化した場合、我が国では、他国に比して利払い費の増加が大きく、財政対応の余地が縮小する可能性がある。また、他の主要先進国は、我が国よりも債務残高対GDP比が低い(例えば、ドイツは71%、米国は74%、英国は84%、フランスは96%)にもかかわらず、それを引き下げようとしている。建議では、このような状況に対して、「リスクを抱えた財政運営を行い、主要先進国の取組に後れをとることは、国際競争力を維持する観点からも得策ではない。」と指摘している。ここで注意すべきことは、足下の国債金利は極めて低く推移しているが、デフレから脱却できれば、民間の活発な資金需要を背景に金利が名目経済成長率を上回る可能性があることである。金利が経済成長率をいつまでも下回ることを前提としたり、過度に楽観的な経済成長率を仮定したりして、PBの改善をないがしろにした財政運営を行うことは、安定的なマクロ経済運営とは言えない。3財政運営の考え方それでは、今後の財政運営において念頭におくべきことは何か。政府は、2015年度、2016年度と「経済・財政再生計画」に定める一般歳出及び社会保障関係費の伸びの「目安」を二年連続で達成した。他方、内閣府の中長期試算においては、中期的に実質2%、名目3%以上の高い経済成長率を実現する「経済再生ケース」においても、2020年度に8.3兆円のPB赤字の発生が見込まれている(ただし、内閣府の試算では、将来の歳出につき物価水準等で増加していくことを前提としており、今後行う歳出改革の効果が織り込まれていないことには留意が必要)。建議では、こうした点も踏まえて、2020年度のPB黒字化に向けて、・2018年度予算編成でも、この「目安」に沿った歳出改革を続けるべき・2018年度の中間評価時に、必要があれば、追加の歳出・歳入措置を検討するべき・歳出改革の実施・検討時期を記した「改革工程表」に定められたすべての改革項目を確実に実行すべきといったことを強調している。「経済再生と財政健全化の両立」は、たやすいことではないが、建議に示された上述のような考え方に沿って、今後とも真摯に財政健全化に取り組み続けていくことが求められている。(財政制度等審議会財政制度分科会の審議風景)16ファイナンス 2017.7SPOT

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