ファイナンス 2017年7月号 Vol.53 No.4
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今後の課題密輸組織やテロ組織は、国際的なネットワークや最新の科学技術を巧みに利用し、密輸手口を変幻自在に変え、密輸を試みる。運上所から税関に呼称が統一された1872年から今日に至るまでの140余年は密輸との闘いでもあった。そして150年目の節目に当たる2022年以後においても、これまでがそうであったように、税関の密輸との闘いに終わりはないだろう。我が国税関は、税関職員の技能の発展と経験の蓄積は当然として、最新の取締検査機器の配備や税関制度の改正など、時代や社会の変化に適応した実効性ある水際取締りの態勢整備に絶え間なく取り組み、これからも国民の安全・安心の実現に貢献してまいりたい。(注)*1 日米修好通商条約第4条には、輸入を禁ずる貨物として阿片の文字がある。*2 取締検査機器については、機能強化のため、新たな検査機器の導入を進めている(2001年:大型X線検査装置、2002年:爆発物探知犬、2005年:不正薬物・爆発物探知装置、2013年:携帯型ラマン分光計等)。*3 法制度の整備については、上記の事前報告制度の拡充のほか、不正薬物やテロ関連物資の取締りの観点から、関税法に輸入してはならない貨物を随時追加している(2005年:爆発物、火薬類、化学兵器の製造の用に供されるおそれが高い毒性物質及びその原料物質、2006年:生物テロに使用されるおそれのある病原体等、2015年:指定薬物)本稿の執筆に際し、関税局監視課諸氏(吉村賢介、藤光基裕、小西幸治、香川里子、原秀一、小暮政光、飯野真五、須藤大地、福永翔翼、川口力也、中山太一、船津幸徳、坂本忍、木谷義政、小賀坂知ひろ、大西雅也、芳賀充、衛藤純生、澤田駿、伊藤拓)の協力を得た。[参考5]事前報告制度の拡充(本年3月の関税改正)見直しの内容背 景米国における同時多発テロ(2001年)等を受け、世界各国の税関は、貨物や旅客等に対するテロ対策を強化している。また、本年も、フランス、バングラデシュ等においてテロ事案が発生するなどテロ情勢は厳しさを増している。我が国税関としても、2019年(平成31年)のラグビーワールドカップ、2020年(平成32年)の東京オリンピック・パラリンピックの開催に向け、テロ関連物資等の水際における一層の取締りの強化を図っていく必要がある。旅客、乗組員及び航空貨物に係る事前報告制度の拡充(情報の充実・早期化・電子化)等に関する関税法等の規定を整備する。❶航空機旅客に係る出国PNRの報告を求める制度の新設● 出国PNRの入手により、早い段階で要注意旅客を選定し検査を実施。● 出国情報と入国情報の突合等により再入国旅客の行動を把握。(注) 航空機旅客に係るPNRは「予約者に関する事項:氏名、国籍、生年月日等」、「予約の内容に関する事項:予約日、航空券の番号、発行年月日等」、「予約者の携帯品に関する事項:携帯品の個数、重量等」、「予約者が航空機に搭乗するための手続に関する事項:搭乗手続をした時刻等」の35項目。❷航空機に係る入国APIの報告時期の前倒し● 入国APIの報告時期を、入港90分前から相当程度前倒し。● 前倒しにより税関における十分なリスク分析及び取締体制を確保。(注) 航空機旅客に係る入国APIは「氏名、国籍、生年月日、旅券の番号、出発地、最終目的地、性別」の7項目であり、航空機乗組員に係る入国APIは「氏名、国籍、生年月日、性別、旅券の番号」の5項目。❸航空貨物に係る積荷情報項目の追加● マスターAWB情報の報告項目(荷送人・荷受人)を追加。● ハウスAWB情報を報告対象に追加。(注) マスターAWBとは航空会社と荷主又はフォワーダー等の混載貨物業者との間の航空運送状であり、ハウスAWBは、フォワーダーと個々の貨物の荷主との間の航空運送状である。したがって、混載貨物の情報はハウスAWBに含まれる。❹NACCSによる報告の原則化● 入出国API、入出国PNR及び航空貨物に係る積荷情報を原則NACCSにより報告。● 効果的・効率的なリスク分析及び円滑な入出港手続の確保。(注) 輸出入・港湾関連情報処理システム(NACCS:Nippon Automated Cargo and Port Consolidated System)❺特殊船舶等に係る出港手続等の整備● 出港手続及び資格変更手続を関税法上、明確化。● 出国APIを報告対象に追加。ファイナンス 2017.77特集我が国税関における水際取締りの現状と課題

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