ファイナンス 2017年5月号 Vol.53 No.2
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国際機関設立の機運が実務担当 レベルでも盛り上がる (2012年7月)夏以降国際機関設立協定の議論は実務担当レベルでも盛り上がりを見せます。7月に事務方の会議があったのですが、共同議長国の判断で、①AMROが作業計画を作成する、②設立協定の素案を作成したい国は「AMROと協力して」準備することが確認された、と記憶します。共同議長から、AMROは進行管理係兼交通整理係の役割が与えられたもの、と個人的には理解しました。AMROは作業計画の担当として、素案の作成に関心のある国に対しては、設立協定のうち、①AMRO(カンパニー)は、「前文」、「目的と機能」、「組織の地位、情報の保護、税金、職員の不逮捕」の部分を作成するので、②それ以外の「任務」、「組織」、「投票」、「予算」、「紛争解決」、「協定の発効手続き」「本部所在地」などを分担して頂ければありがたい、との提案を投げかけてみました。建設的な反応はありませんでした。某大国の主張は独特のものでした。その発言を聞いていると、とにかく一刻も早く国際機関へ移行することが重要、の一点張りです。中身について何を求めているのかが不明なのが悩みの種でした。提案の中身よりも早さを優先しているのではないかと危惧されました。早期の国際機関化を主張する数カ国については、上に述べたAMROの仕事は経済の調査・分析に限定すべきと主張していた国ばかりでした。その意味で、所長就任直後、AMROとして国際機関の設立協定を実際に書く作業を最優先にしなかったことは明らかな手抜かりでした。この油断を8月以降たびたび後悔することになります。「ADBで国際機関の設立条約を書くことができるのは一人だけだが、ちょうど退職するところ、現在求人中」(2012年7月)とりあえずオフィスの体制整備が最優先課題となりました。協定の素案を準備すると言っても、その時点でオフィスにはエコノミストばかりで、法律家は1名だけです。その一人の法律家も中央銀行出身で、英語の実務としては、中央銀行関係の民間銀行との取極めの経験くらいです。まず民間の法律事務所で国際機関設立に専門家がいないか、探し始めました。ワシントン、ロンドン、ジュネーブなどの法律事務所には経験のある弁護士がおり、何人かはすぐに仕事に取り掛かることが可能とのことでした。費用を問い合わせてみると、時給が750米ドル(8万2500円)から44(+必要経費)とのこと。「から44」なのは格付の高い弁護士が希望の場合はさらに単価も上昇するとの意味です。もし2000時間必要だと仮定すると、150万ドル(1億6500万円)以上44(+必要経費)ということになり、2012年のオフィスの事務経費予算のほぼ全額という破天荒な額になります。何らかの割引が可能としても、とても支払える金額ではありません。次に地域の国際機関から人材を短期的に派遣してもらえないか相談することにしました。中でも、アジア開発銀行(ADB)は同じアジアの機関の先駆者として、それまでも陰に陽に当オフィスの立ち上げに力を借りていました*9。7月末にフィリピン出張する機会があり、ADB写真:所長就任直後(2012年5月)、写真提供AMRO52ファイナンス 2017.5連 載|国際機関を作るはなし

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