ファイナンス 2017年5月号 Vol.53 No.2
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る。「平均で約16%のアルコール度数でありながら、クールで、言い様のないピュアで透明感のある発酵飲料である日本酒の微細な多様性に触れることにより、私は心底より高揚感に浸ることができた。」日本政府は、日本の文化的・クリエイティブな商品・サービスの海外市場開拓を目指すクールジャパン戦略の一環として、日本酒の輸出に現在取り組んでいる。日本酒のライジングスターとも言うべき「獺祭」醸造元の桜井博志氏は、国内市場の縮小を見据え、海外販売割合を全販売の半分にまで引き上げるとの目標を設定した。桜井氏がパリでのブランドプロモーションに注力してきたのは、そうすることがパリでの動きに敏感な世界最大市場・ニューヨークでの成功にもつながるとの見立てによるものだ。桜井氏は、日本酒は複雑な製造工程ゆえに必然的に高価になるとの認識の下、次のように言う。「だから、獺祭のターゲット顧客は世界の上位5%の所得層にしています。経験則に照らすと、この所得層になると国や人種は異なっても真に優れた商品への感度は異なりません。」また桜井氏は、ワインと対等の関税になれば海外でも成功できると信じる一方、政府による補助金やプロモーションイベントの効果を疑問視する。桜井氏のこれらの発言は、日本において当たり前とされているビジネスの知恵、即ち①女性を含めた若年顧客層をターゲットにすべし、②成熟した欧州市場よりも規模の大きい米国・中国市場を重視すべし、③価格は安い方がいい、等の考え方とは相反しているようだ。思い返せば、日本で最初にワインが売れ始めたのもボルドー、ブルゴーニュ、シャンパン等の高級ワインへの上位所得層の関心が端緒であって、その後徐々に様々なワインが一般家庭にも普及して日本酒の市場にも食い込む結果となったではないか。日本政府も産業界も、灯台下暗しを肝に銘じて、過去の成功体験の焼写しをやめてリスタートを切る時期を迎えているのかもしれない。Jancis Robinson氏自宅兼オフィスでの日本酒テイスティングを終えて(2017年3月)ロンドン発の日本酒の世界発信に向けた 2つの攻略ポイント(その1)67 Pall Mall伝統ある会員制クラブが居並ぶロンドンのPall Mallに、2015年に新規開業したワイン愛好者向け会員制クラブ。メンバーは様々な職種、人種、性別の高所得層が多い。オーナーのGrant Ashton氏は「わがクラブを日本酒キャピタルにする。」と公言し、日本酒イベントを熱心に開催。https://67pallmall.co.uk/(その2)Jancis Robinson氏ロンドン在住の世界屈指の英国人ワイン評論家。2016年9月の67 Pall Mallでのプレミアム日本酒イベントで日本酒の魅力に開眼し、その模様を記したFinancial Timesの彼女のコラムは「2016年の日本酒業界最大のニュースかもしれない。」とまで評された。オックスフォード大学出身。http://www.jancisrobinson.com/ファイナンス 2017.537The Samurai spirit-クールジャパンで日本酒の魅力を世界に発信-SPOT

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