ファイナンス 2017年5月号 Vol.53 No.2
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国際金融規制にかかる議論は活発かつダイナミックである。その焦点と方向性は状況変化に対応して変遷する。例えば、2016年に当方が時に孤立しつつも導入を主張してきた金融規制の影響評価は今や、国際社会での作業のメインストリームとなり、この評価の構造的枠組みを検討する段階となっている。他方、2016年末に最終化が期待されたバーゼルⅢは、引き続き最終化に向けた努力を続けているものの、実現は遅延している。しかし、当方が示してきた過度な資本賦課への懸念はコンセンサスになった感がある。より重要なのは、リーマンショック後の一連の規制改革が実施段階に移行していく中、金融包摂、フィンテック、サイバーセキュリティー、グリーンファイナンスといった新たな課題が議論の中心になってきたことである。象徴的なのは、2017年3月にドイツ・バーデンバーデンで開催されたG20財務大臣・中銀総裁会合声明(コミュニケ)の分量である。全体の字数が前回G20より約2割も短縮される一方、金融セクター関係の字数が倍増し、全体の約4割を占めるに至った。金融関係パラグラフの数も通常2つ程度なのが、7つとなった。但し、字数増加分は新たなパラグラフが設けられたフィンテック、サイバーセキュリティー、送金、テロ資金対策等であり、新課題へのシフトが顕著である。その中で、金融セクターに関する限り、麻生副総理兼財務大臣兼金融担当大臣がご発言された内容がほぼ全て盛り込まれるといった成果があった。その後、4月には米国・ワシントンD.C.でG20財務大臣・中銀総裁会合が開催され、金融規制改革へのコミットメントを再確認するとともに、バーデンバーデンG20以降の進捗状況が確認された。また、G20における議論以外でも、2017年4月21日には米国において金融規制の見直しに向けた大統領覚書(システム上重要なノンバンクの指定プロセス及び金融機関の破たん処理枠組みの見直しに向けた2本の大統領覚書)の署名がなされるなど、金融規制を巡る国際的な動向は日々大きく変動している。以下、バーデンバーデンG20コミュニケについて解説するが、意見にわたる部分は神田の私見にすぎない。1金融規制改革の基本的考え方(1)声明 An open and resilient nancial system is crucial to supporting sustainable growth and development. To this end, we reiterate our commitment to support the timely, full and consistent implementation and nalisation of the agreed G20 nancial sector reform agenda.(2)解説 金融システムは、開放的かつ強靭であるべきであるが、金融のための金融という自己目的に資するのではなく、持続可能な成長と発展のために存在するという基本哲学を明確化したものであり、我が国の成長重視の主張が反映されている。そもそもG20の全体目的は強力、持続可能かつバランスの取れた成長の実現であり、金融改革の議論もこれに奉仕するべきものである。また、合意された改革を適時、完全、整合的に実施すべきであることはいうまで(バーデンバーデンG20)国際金融規制のエボルーション金融庁参事官  神田 眞人Spot02ファイナンス 2017.529SPOT

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