ファイナンス 2017年4月号 Vol.53 No.1
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連 載|超有識者場外ヒアリングートリノ振動の全体像を知るために必要な3種類目をT2Kが発見した、ということかと思います。▶神田 スーパーカミオカンデの成功には民間企業の技術が不可欠で、日本の最先端技術を駆使した総力戦の側面があったと理解しています。『ニュートリノ小さな大発見』でも紹介されている通り、掘削の三井金属、水槽の三井造船、データ処理の富士通、超純水のオルガノが活躍し、何よりも、浜松ホトニクスの大口径光電子倍増管が決定的であったと認識します。本シリーズにも登場された天野浩先生と共に私も幼少期を過ごした浜松の企業のプレゼンスに驚く方も少なくありません。地域活性化にとっても非常に良いことであり、政府の成長戦略の観点からも重要であると考えています。もともとは日独英共同のJADE実験に小柴先生が浜松テレビへ協力を要請したのが契機で、その後、カミオカンデ等々と繋がっていったと聞きましたが、なぜ、浜松テレビが発見、選択されたのか、そして、その後、次々と高度な世界最高度の要請に応える能力があったのか、教えてください。▷梶田 小柴研究室が浜松テレビとの提携を始めたのは私が大学院に進学する前でしたので、伝え聞いている範囲でしか分かりませんが、1970年代後半にJADE実験を行っていた際、光検出器として浜松テレビの光電子増倍管を使用していました。戸塚先生曰く、当時は必ずしも製品が優れていた訳ではありませんでしたが、製品を幾度となく突き返してもすぐに改良するといった、研究者の要求を満たす製品を絶対に作るという精神があったとのことであり、おそらくその精神は今もなお続いているのだと思います。▶神田 アンネ・ルイレ ノーベル物理学賞選考委員長は梶田先生の業績について、素粒子物理学を超えて、物理学全体に影響を与え、我々の宇宙観を変えた、と表現されていますが、最高の賛辞だと思います。人類の生活への直接的な貢献をする実用研究の世界が重要である一方、真理を求め人類の知見を広げていく純粋科学がなければ、人類の知的進化はなく、また、実用研究のシーズも途絶えると思います。そのような研究はリスクが高いので、成功した場合には適切に評価することが必要だと思いますが、問題は、限られたリソースを有効に配分しなくてはなりませんし、モラルハザードを防ぎ、国際競争に勝てるところに集中投資も必要なところ、実用化といった成果を基準にできない以上、どのように、支援すべき研究を審査、選択するかです。特に、領域や組織を超えた評価は日本の学界は極めて苦手なので難渋します。先生は、どのように、無数にある研究プロジェクトの間で、適切に評価、優先順位付けするのがいいとお考えでしょうか。▷梶田 宇宙線の分野では、数十年前は自分の研究プロジェクトが一番重要であると主張する風潮があったかと思いますが、現在は宇宙線の分野で大規模なプロジェクトを行うには共同研究拠点でやらざるを得ない状況です。このように、新たな研究プロジェクトとして予算を要求できるのは一つに限られる状況下においては、何を優先すべきかしっかりと議論し、ボトムアップでコミュニティが決定する形へ変化してきています。実際に、2010年頃から数年かけて何度も研究会を重ねて議論した上で研究プロジェクトを決定するというプロセスが行われています。▶神田 最後に、世代論について、先生はノーベル賞受賞会見で、日本人受賞の対象は70~90年代の研究の認知であり、今後は心配だと仰っていファイナンス 2017.467超有識者場外ヒアリング61

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